クーデターは序章。トルコ軍の「反乱」が世界にもたらす4つの懸念

 

現在、ギュレン師は、ペンシルベニア州のセイラースバーグという場所に住んでいます。このセイラースバーグというのは、実は町でも村でもなく、2つの町にまたがった「地区」です。ペンシルベニア州の北東部にある「ポコノ山地」という高原地帯の入り口にある閑静な山間部のコミュニティで、一つの「私的なブランド」としてセイラースバーグという名前になっているのです。

私の住んでいるプリンストンからは車で1時間半程度という感じで、ニューヨーク州の北部などに抜ける際には、良く通るところなのですが、本当に静かで綺麗なところです。言ってみれば、ポコノが軽井沢なら、セイラースバーグは松井田とか下仁田という感じでしょうか。都会からは離れた山地ですが、高級住宅地、あるいは別荘地として知られています。

面白いのは、このセイラースバーグにはヒンドゥー教の改革運動である、アリーヤ・サマージの寺院もあるのです。そもそも、アメリカというのは、旧大陸で迫害を受けた清教徒(ピューリタン)が建国したわけですが、その中でもこのペンシルベニア州というのは、特に「信教の自由」を徹底するという考え方でできています。

ですから、ドイツのルター派の中で近代文明を否定したり、徹底した博愛主義を唱えたりしたことで迫害を受けた「アーミッシュ」のコミュニティが今でも残っていたりします。そうした風土がアーリア・サマージの拠点となった背景にあるのでしょうし、亡命地としてギュレン師がここを選んだのも同じ理由だと思います。

そう考えると、アメリカがギュレン師をエルドアン政権に引き渡すということは、可能性としては低いと思います。ギュレン師はそうした計算も含めて、この地に居を定めているとも考えられます。

さて、そうなるとエルドアン政権とアメリカの間は冷え込むことが考えられます。また、今回の一連のドラマの結果として、政権への権力集中が顕著となっていることには欧州からも反発が強く出ています。特に、「反乱側のメンバー」を大量に拘束した上で、「民意の求めがあれば」死刑の復活も辞さずという大統領の姿勢は、「EU加盟の可能性を最終的に放棄するもの」という受け止めもあるわけです。それどころか、NATOからの「追放」という可能性も一部の報道では出てきています。

この動きですが、まだ始まったばかりであり「反乱派の粛清」がどこまで行くのか、「ギュレン師」の処遇はどうなるのか、そして米国やEUとの関係はどこまで悪化するのかといった変動要素があるわけで、具体的な予測を立てるのは難しいと思います。

ですが、この問題を取り囲んでいる「大きな状況」を見てみることから、とりあえずのアウトラインを考えることはできそうです。4点指摘しておきたいと思います。

print
いま読まれてます

  • クーデターは序章。トルコ軍の「反乱」が世界にもたらす4つの懸念
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け