搬送時すでに死亡は年間59人。現役医師が警告する熱中症の恐怖

 

熱中症になりやすくさせる病気と薬

また、さまざまな病気が熱中症のリスクを高めます。まず、肥満のある人々では熱中症のリスクが高くなります。体脂肪や皮下脂肪は断熱効果があり熱を保持します。

さらには、甲状腺機能亢進症褐色細胞腫などの内分泌の病気があります。甲状腺機能亢進症では甲状腺ホルモンが過剰に分泌されるために体内の熱産生が増えます。そのために熱中症にもなりやすくなります。また、褐色細胞腫では、アドレナリンなどが過剰に分泌されるためにやはり熱産生が増えます。そのために熱中症にもなりやすくなります。

また、発汗機能が落ちる病気でも熱中症のリスクは高まります。身体中における外分泌腺の分泌低下をきたすシェーグレン症候群でも発汗機能が落ちるので熱中症のリスクが高くなります。

ある種の薬も熱中症のリスクを高めます。まず、発汗を抑える作用のある抗コリン薬抗ヒスタミン薬などです。また、高血圧症などの患者さんに処方されることがある利尿剤もリスクを高めます。利尿剤で尿量が増え、脱水になりやすくなり、結果として熱中症にもなりやすくなります。これらの薬を内服するのは高齢者に多いですので特に要注意です。

熱中症予防のポイント

それでは熱中症予防のポイントは何でしょうか。それは、高温環境への慣らしと適切な水分補給です。運動部などの練習の夏期合宿では、徐々に慣らすようなメニューを採用すべきです。運動メニューの具体的なものとしては、さまざまなガイドラインがありますのでそれらを参考にするとよいでしょう。

熱中症の重症ケースは熱射病です。熱射病の予防で最も重要なことは、軽い熱中症の症状が出たら熱射病に進行する可能性があることを知ることです。これは以外に急速に進行します。軽い熱中症の症状は警告症状とみなして、ただちに涼しいところで休憩させ、水分補給を行うことです。

軽い熱中症の症状には、熱疲労、筋けいれん、下肢浮腫などがあります。これは、身体から発せられた貴重なサインとみなすべきものであり、速やかに休息を取り水分補給を行うべきなのです。熱疲労では全身の血管が拡張して血圧が下がります。筋肉のけいれんは痛みを伴うもので、こむら返りに似ています。

以外なことに、運動選手でも、このような症状があったとしても無理をして練習や競技を継続することがあることです。脚が浮腫でいるのは長時間立ちっぱなしであったせいだと勘違いすることも多いようです。体温上昇や意識レベル低下は熱射病の症状ですので、これらを認めたら救急搬送を考慮すべきです。

熱中症診療のピットフォール

熱射病ケースに対しては病院ではクーリングが行われます。体温を下げるだけで軽快することが多いですが重症例では多臓器障害を来すケースがあります。そのようなケースでは、感染症や薬物中毒の可能性も考えながら治療を行います。ピットフォールですね。

熱中症について最後のピットフォールとしては、湿度が高い場合です。気温がそれほど高くないときでも湿度が高ければ熱中症が起きやすい、ということです。湿度が高いと汗が蒸発し難くなります。汗の蒸発は熱を除去する重要なメカニズムの一つです。

夏の間は、気温だけでなく、湿度にも注意しましょう。そして夏休みを楽しい思い出にしましょう。

文献:Cheshire WP. Thermoregulatory disorders and illness related to heat and cold stress. Auton Neurosci. 2016;196:91-104.

image by: Shutterstock

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