アーリーアダプター
米社会学者E・ロジャーズ氏の一説で、アーリーアダプターという言葉を用い、新しいテクノロジーや新製品への社会の適合プロセスを説いている。
イノベーションが起こると、アーリーアダプター、すなわち「早期適応者」とされる少数が初期のトレンド変化を捉え、後に追随する多数派の先導役になるというものである。
追随する多数派は、アーリーマジョリティとレイトマジョリティーの二組に分類される。合わせて全体の6割以上を占めるこの層が加わることで、イノベーションが初期のトレンドから常態化へ移行したことを告げる。
誤解のないようにしたいが、既に一定期間、他国でトレンド形成が始まっている技術やサービスを国内に持ち込み、最初に利用し始めるグループは、アダプターではなくマジョリティーである。
携帯電話の時も、インターネットの時も、日本国内のメディア等が大きく取り上げ、テレビなどで「先駆者」が紹介されるようになるのは、海外では年単位でトレンドが確立していたのちのことである。
政・官・経済界のコンソーシアムが、国内の資本主義を「提供」する日本社会にあって、世界で起こっているトレンドにどうしても遅れがちになる。それで「いい面」もないわけではないが、そのしわ寄せとして、コンソーシアムの大き過ぎる影響力を前に、個人レベルでのイノベーション喚起が起こりにくい。
厚いアーリーアダプター層を持つ米国では、「可能性」の下に大きな資金や政治力が集まる底力を見せる。それは時に、早期適応を試みる投資家にとっても、政治家にとっても、非常にリスキーな行動たりうる。
しかし、リスクを取って一早く社会の発展に貢献したものは、大きく報われるという開拓精神をアメリカ社会は今も大切にしている。いつの時代もそうしたことが、既得権を打破し、各分野でパラダイムの変化を呼び起こしている。
今や、世界最大の小売業は実店舗を必要とせず、世界最大のタクシー配車企業も自社車両を持たない。世界最大級のホテル企業もまた、自社でホテルを所有していない。
これらはみな、センセーショナルな時代の変化を告げている。
インターネットの発展がEコマースを生み、そのEコマースが引き起こしたものは、価格破壊以前に消費者主導の「市場開放」で、その結果としての価格見直しである。
アマゾン、ウーバー、エアービーアンドビーの成功は、消費者の支持に始まり、それが政治を動かして既得権益を打破し、広く一般に市場開放をもたらした代表例である。
世界の多くの国々では、もう何年も前から、ウーバーやエアービーアンドビー、それらを追随するビジネスによって市場構造が変わり、そうした変化は既に市民生活に溶け込んでいる。
そして需給の双方で、多大な恩恵を市民にもたらしている。
1人なら、年に1回乗るかどうかのタクシーも、手軽で安価なウーバーの出現で、人々の移動の自由度が飛躍的に増し、商店やレストランなど、街中のビジネス喚起に大きく貢献している。
社員のタクシー利用を禁じてきた零細企業も、ウーバーの活用でビジネスの足が大きく伸びている。
ホテル利用などほとんどしなかった郊外に住む若年層や新社会人らが、数名でダウンタウンの一等地にあるマンションの一室を借り、週末の都心で憧れのナイトライフを楽しんでいる。
これらのサービスを提供する側の個人も、定期的に行われる身辺調査等を経て登録を済ませると、自身の生活リズムに合わせた頻度でサービスを提供でき、そこから得たプラスアルファの収入を楽しんでいる。
こうしたことは、民主的な観点に立って見れば、それまで既得権で潤う業界の権威、それに近い一部の企業や個人が受けるマイナス面を補い余るほどの経済効果を、広く全体にもたらしていると捉えることができる。消費者の支持が、社会の一部ではあるが、「富の再分配」を実現したのである。