うつ病を隠して休職していた社員を解雇。会社は裁判に勝てるのか

 

ここで最初の裁判で問題になった点があります。実は、この社員は「うつ病になったことを会社に報告していなかったのです。そこで裁判所は会社の業務量の多さなどの問題は認めつつも、病名を会社に報告しなかったことにも「一部の責任はある」としたのです。

これは、もしかしたら、みなさんの中にも同意見の人もいるかも知れません。ただ、最終的な裁判所の判断はどうなったかというと次のようになりました。

  • 報告がなかったとしても会社は体調の悪化に気づける状態にあった
  • 業務量を少なくするなどの配慮をするべきであった。

そして、損害賠償として6,000万円を支払うように会社に命じたのです。

いかがでしょうか。みなさんの中には「本人から報告も無いのに(メンタルな面まで)わかるわけない」と考える人もいるかも知れません。確かにそのとおりです。

ただ、これは「報告がなくても、何かあったらすべて会社の責任が問われる」という意味ではありません。実は、この社員は休職前に不眠症などの不調を訴えたり業務量を減らすよう上司に頼んだりしていました。つまり、会社は病状を「全く予想できなかったわけではないでしょ」というのがこの判決の理由です。

また、一般的には「うつ病を報告すると人事評価に影響してしまう」と考え会社に伝えずに仕事を続けたいと思う人も多い、という事情も裁判に影響しているでしょう。これらは非常に重要な点です。

そこで実務上は、

  • 社員から(うつ病などの)報告がなくても業務量の適正化を考える
  • うつ病などの情報はそもそも本人たちが報告しづらいことであるという前提で社員の状況確認を行う(もちろん報告してもらうのが望ましいのは言うまでもありませんが)

ということに気を付ける必要があるでしょう。これらを行うだけでも万が一のトラブルを回避することができます。一度、見直してみてはいかがでしょうか。

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【社員10人の会社を3年で100人にする成長型労務管理】 社員300名の中小企業での人事担当10年、現在は特定社会保険労務士として活動する筆者が労務管理のコツを「わかりやすさ」を重視してお伝えいたします。 その知識を「知っているだけ」で防げる労務トラブルはたくさんあります。逆に「知らなかった」だけで、容易に防げたはずの労務トラブルを発生させてしまうこともあります。 法律論だけでも建前論だけでもない、実務にそった内容のメルマガです。

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【著者】 特定社会保険労務士 小林一石 【発行周期】 ほぼ週刊

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