日本も他人事じゃない。フランスの「徴兵制再開」に反発強まる 

 

国民皆兵の費用の見積はまちまちだが、巨額の数字が飛び交っている。2月初めまでにフィリップ首相に提出された報告書では設備投資に32-54億ユーロ(4200-7100億円)、その後、毎年24-31億ユーロ(3200-4100億円)という数字が示された。元老院(上院)の昨年6月の報告書では、毎年80万人を徴兵する場合は300億ユーロ(4兆円)、野党・共和党のコルニュ=ジャンティーユ国民議会(下院)議員の見積では設備投資だけで100-150億ユーロ(1.3-2兆円)となっている。

費用見積がまちまちなのは、軍への入隊者と非軍事の奉仕を行う者の比率が定まっていないし、そもそも軍事・非軍事の奉仕が義務付けられるのかも決まっていないからだ。制度のイメージが決まらない理由の一つは、国防予算の実質的削減を防ぐ目的で、誰にも軍への入隊を義務付けないことになった場合、誰かに非軍事の奉仕を義務付けることが、兵役と無関係な強制労働を禁止した欧州人権憲章に違反するおそれが強いことである。

フランス最大の学生組織FAGEは1月18日付の声明で、マクロン大統領の国民奉仕構想について、「社会悪の元凶と決めつけた世代を『正そう』とするデマゴーグ的提案」と非難し、フランスの若者はかつてないレベルで市民的活動に参加しているというデータを根拠に、「若者のニーズからかけ離れた大統領選の小道具」と酷評している。

マクロン氏はそれでも、3-6か月間の国民奉仕を義務化するという主張を堅持している。マクロン政権の国内政策の柱である労働規制緩和には、一部の労組を中心に反対も強いので、政権が国民奉仕制度を実現できず、それに代わる国民的連帯のための政策を提案できない場合、政権の新自由主義的傾向への批判が強まるだろう。(静岡県立大学グローバル地域センター特任助教・西恭之)

image by: Frederic Legrand – COMEO / Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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