増える中小企業の黒字倒産。モノづくりニッポンが町工場と共倒れに

 

旋盤工を50年続けながら作家に

約50年にわたり旋盤工職人として大田区の工場で働き作家ノンフィクションライターとして中小企業の現場をリアルに描き続けてきたのが小関智弘氏である。「錆色の町」「地の息」で直木賞候補、「羽田浦地図」「祀る町」で芥川賞候補、「大森界隈職人往来」で日本ノンフィクション賞などを受賞している。

退職するまで工場の現場で働き続け、執筆も続けてきた労働者であり異色の作家だ。「鉄は春まで匂った」などみずみずしいタイトルで、中小企業の現場や労働の姿を描いた文章は、現場で50年も働いてきた職工だっただけに他の追随を許さないリアリティと汗や油の匂いがあり、工場文学の見本とさえいわれた。

町工場には金型職人、プレス工などの部品職人がいるが、特にプレス工は1ミリ以下の製品から人工衛星の部品まで作り、まさに日本の工場、機械の現場を支えており、日本のモノづくりの象徴ともいえる人々だ。東は大田区蒲田、西は東大阪が両横綱格とされた。

小関さんが町工場の現場の様子を語る時は生き生きとしており、とても80代の人とは思えない。しかし9,000以上あった蒲田の工場も今は4,000を切るぐらいまでに減ってしまい、その上現在の工場の経営者は大半が70代前後で、従業員数も10人前後がほとんどだから、本当に日本の中小企業は危機的状況にあるという。2017年の休廃業企業は約2万8,000社、しかし約半分が黒字なのに後継者がいないため廃業に追い込まれてしまうのだ。

中小企業の多くは後継者を見つけたり、育てたりしないうちに70歳前後になってしまうので、結局廃業せざるを得なくなるようだ。戦後の苦しい時期を少人数で乗り切ってくることに精一杯で、後継のことを考える余裕もなかった。後継者を育てるには2~3年から5年はかかるとみる人が50%、5~10年は必要とみる人は30%もいる現状からすると、やはり50代のうちに後継者のことを考えておく必要があるのだ。

経産省の試算によると、このまま後継者問題を放置しておくと2025年までに約650万人の雇用が失われ22兆円のGDPが減少する可能性もあるとされる。

中国、東南アジアの追っかけが不気味

中小企業に身を置きながら冷静に中小・零細企業を見てきた小関さんによれば、「日本のモノづくりの力はすごい。しかし今や中国や東南アジアもどんどん追いついてきているので先行きは心配だ」といい、中小企業を抱える大企業も昔のように自ら投資・開発・研究をしなくなっており、安易にM&Aに走る傾向があるのでその点も日本の技術力、企業力を弱めてしまうのではないかと危惧する。

約900万社といわれる中小・零細企業なくして日本の工業力や技術継承は危なくなることを本気で大企業や政府が考えないと徐々に基盤が弱体化し新興国に抜かれる日が来るだろうと小関さんは警告していた。(Japan In-depth 2018年4月27日)

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ジャーナリスト。1942年生。慶応大学経済学部卒業後、毎日新聞社入社。大蔵省、日銀、財界、ワシントン特派員等を経て1987年からフリー。TBSテレビ「ブロードキャスター」「NEWS23」「朝ズバッ!」等のコメンテーター、BS-TBS「グローバル・ナビフロント」のキャスターを約15年務め、TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」に27年間出演。現在は、TBSラジオ「嶌信彦 人生百景『志の人たち』」出演。近著にウズベキスタン抑留者のナボイ劇場建設秘話を描いたノンフィクション「伝説となった日本兵捕虜-ソ連四大劇場を建てた男たち-」を角川書店より発売。著書多数。NPO「日本ニュース時事能力検定協会」理事、NPO「日本ウズベキスタン協会」 会長。先進国サミットの取材は約30回に及ぶ。

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【著者】 嶌信彦 【発行周期】 ほぼ 平日刊

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