普段使い慣れてなれている「比喩表現」を、言葉通りの意味に受け取るような人は滅多にいません。「洗濯機を回す」と言えば、洗濯機の中の洗濯物が回っているのだと、大抵の人は理解できますよね。とはいえ、なぜ私たちは比喩の表現から正しい意味を汲み取れるのでしょうか。今回の無料メルマガ『1日1粒!『幸せのタネ』』で、著者の須田將昭さんが考察しています。
どうしてこれで伝わるの?
先日、Twitterで知人が
洗濯機を回す?洗濯物を回す?あれれ?
と戸惑ってしまったということを呟いていました。私たちは日常生活の中で、特に何も気にせずに
洗濯機を回す
という表現を使います。これで十分に伝わります。でも冷静に考えてみると、あの大きくて重い機械を回すっておかしくない?と思ってしまいますね。
これは比喩の一つで「換喩(かんゆ)・メトニミー」と呼ばれるものです。ある概念の隣接性・近接性に基づいて、語句の意味を拡張して表現する方法です。「洗濯機を回す」と言っても、回っているのは中の洗濯物ではあるのですが、洗濯機の中に洗濯物が入っているという「隣接性」で、私たちは同一視して理解しています。
冬はやっぱり鍋がいいよね。
と言っても、鍋そのものをどうこう言っているわけではなく、中に入っている「鍋料理」を指しているのは明らかですね。
では、頭の柔軟体操の続きで、一つ、仲間外れを見つけてみてください。
- 白バイにつかまった。
- 漱石をよく読む。
- 机の上は書類の山だった。
- 一升瓶を飲み干した。
- 扇風機を回してください。
さあ,どうでしょうか?4.の「一升瓶」は、さっきの「鍋」と同じタイプですね。一升瓶そのものを飲み干す人がいたら大変です。5.の扇風機は、最初の洗濯機の例と同じタイプ。1.の白バイは、バイクそのものに捕まったわけではなく、白バイに乗った警察官に捕まったのです。つまり、これも「隣接性」ということで同じグループ。2.の「漱石」は「漱石の作品」という意味で、これも慣用的な表現ですが同じグループです。他に「ベートベンが好きです」という言い方もそうです。
残るは3.の「書類の山」です。これは「隠喩(いんゆ・メタファー)」と呼ばれるタイプです。書類が積まれた様子が「山」と同じく「盛り上がった形」の「類似性」に着目した比喩です。ということで、正解は3.が仲間外れです。
私たちは、冷静に考えると突拍子もない表現を使っていることがありますが、ちゃんと理解できています。これが言葉と認知の面白いところです。
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