誰か特定の人物を批判するのは無意味でも、明らかにこの「これ」つまり今回の強風被害では「制度の誤り」が露呈したのは事実です。であるのなら、2つのことをしなくてはなりません。
1つは、現時点でも残っている問題に対して「現行制度の欠点を補って」緊急で対策を行うことです。
2つ目は、二度とこういう失敗を繰り返さないために制度や体制の変更を行うということです。
まず、どうして激甚災害の指定を要望するのに9日もかかったのでしょうか?それは、県として必要な被害の状況を把握するのに時間がかかったからです。どうして時間がかかったのかというと、大きく2つの理由があるようです。1つは規則では「各市町村から電話で県庁に報告する」というルールがあるのですが、電気が通じておらず携帯基地局もダウンした中では報告ができなかったという問題です。
つまり10軒の全壊がありましたという報告と、何も報告がないというのを比較すると、平時では10軒の全壊の方が大変な事態であり、報告ゼロというのは問題がないと理解ができるわけです。ですが、今回の場合は、報告がないというのは、報告手段も全て奪われたという大変な危機であるわけです。にも関わらず、正確な数字の報告がないとして県庁として待っているだけだったというのは、ルールに縛られすぎです。
2つ目の理由は、その被害の調査です。全壊なのか半壊なのか、一部損壊なのかという3つのカテゴリに分けて調査をするわけですが、その調査の結果として3つのどのカテゴリに入るかというのは、その家屋に対する見舞金の額に反映されるのです。例えば半壊なら出るが、一部損壊だと見舞金が出ないといった制度があるわけで、そうなるといい加減な調査というのはできないわけです。
そうした結果として、被災者への支援を決定するための「国への報告」がいつまでもできない、9日かかってようやくできたが、数字自体はまだまとまっていないという、文明社会では考えられないような状況になっているわけです。
例えばですが、全体の支援に必要な予算を算定するための被害件数の概略については、千葉県ぐらいの面積であれば世界中で保険会社が使っているドローンによる撮影とソフトによる解析を使えば、数日でできるはずです。
また、半壊なら見舞金が出るが、一部損壊では出ないというのもおかしな話です。家屋の損傷とそれに対する修繕費というのは、ピンからキリまであるわけで、そこを非常にラフな3つのカテゴリに分けてしまうというのは、いい加減すぎると思います。と言いますか、そのカテゴリ分けが「住み続けられるのか?」という基準、また修繕コストの相当な支援になるかという基準とはかけ離れてしまっている分けです。
恐ろしいことに、その数字ですが極めて厳しい内容となっています。本稿時点でのNHKの最新数字(23日現在)では
「全壊が100棟、半壊が1,266棟、一部損壊が1万1,201棟、床上浸水が47棟、床下浸水が67棟」
つまりあれだけの強風被害にも関わらず、あくまでこの時点の数字ですが、全壊家屋が100棟、半壊が1,266棟で、残りは見舞金ゼロの一部損壊だというのです。バカな話としか言いようがありません。つまり、日本の台風被災に対する救援の制度が「水害」に偏っており、「暴風」については過小評価をしているという制度的欠陥があるのだと思います。
ということで、「誰かが悪い」のではないかもしれませんが、明らかに「制度は悪い」のです。要するに、
- 実情に合っていない
- 形式主義で本質とズレている
- 深刻な危機における「緊急避難的な」対応ができない
という根の深い問題があるということで、危機管理としては全くの失敗ということになります。
制度の問題としては、例えば、
- 倒木の処理に自衛隊が頑張っているが、その倒木に電線がかかっていると自衛隊は手出しができずに、電力会社による電線の処理を待たねばならない
- 発電機があっても、町村からの要望がないと出せない。だが、発電機が提供できるという情報は、電気がないと受信できないので結局は停電が深刻化した所には発電機は届かない
- せっかく電源車があっても有資格者がないと動かせない
というような問題があります。どのルールにも、一応の理由はあるのですが、とにかく国民の生命財産が危機にさらされている有事においては、緊急避難的な対応ができるように、制度設計と、人材育成の方針を変えないといけません。