都内勤務の医師2人に聞いた「医療現場にはまだ余裕がある」の嘘

 

加えて言う。これまで都は患者数急増の理由を積極検査による母数の増加として来た。ところが直近の3日間(7月10、11、12日)のデータで言えば、陽性率は都の算出法でも6%を超えている。これは3月初め、5月初めとほぼ同じ数値である。いや、事態はもっと深刻であろう。というのも3月当初とは違い、既に民間レベルではとれるだけの対策はとっているにもかかわらずの数値であるからだ。

リスクマネージメントは一体どこへ行った。この現実をどうするつもりなのか。時々刻々と変化する現状を一切無視して遙か以前に決めたスケジュール通りになんでもかんでも無理押しにするつもりなのか。そもそも4月に緊急事態宣言を全国規模で出さざるを得なくなったのは、春の人事異動や進入学に伴う引っ越し、春休み中の学生の帰省といった人の移動をほったらかしにしておいたことが招いた結果でもある。

今、夏休みが間近に迫っている。学校によっては事実上もう始まっているところもあるかもしれない。学生は、東京で最も危険とされている群の1つである20代に該当する。もし、無自覚にして無症状の彼らが大挙地方へ移動をすれば感染はたちまち列島全土に拡がることになる。田舎になればなるほど医療体制は脆弱であろうし、高齢者も多い。

過去の反省を活かすなら、こういった人の移動に何らかの制限を設けても良さそうなものだが、実際の政策は「Go To キャンペーン」である。正気か!観光需要喚起なら「地元再発見」をテーマにして自分の住んでいる都道府県内で楽しめばいい。一番いいのは感染者数の実態に即した「Go To マップ」のようなものを作って、旅行可能領域を明示することである。患者数のほとんど出ていない隣県同士なら人の移動によって生じるリスクも少ない。

5月の緊急事態宣言解除以来、頑ななまでのスケジュール至上主義のようなものを感じているのは自分だけか。これは憶測であると断った上での発言だが、オリンピックをやるためには何としてもこのスケジュールで、といったような大圧力でも掛かっているのではないか。

いずれにしろ相手はウイルスである。スケジュールもロードマップも通用しない。状況に応じたリスクマネージメントこそが重要なのである。このまま行けば、全てのしわ寄せは第1波(通算で言えば第2波)で疲弊した医療従事者に回されることになる。こうなれば最早ダメージはコントロール外であろう。何事も選択肢があるうちである。このまま事態が進み、選択肢が無くなってしまってから臍を噛んでも、その時はもう遅いのである。

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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