医学博士に聞く、コロナワクチンに長期的な副作用はないのか?

 

SARSワクチン開発から学んだこと

2003年にSARSが現れた時も、ワクチン開発のために多くの研究が行われました。それらの研究の中で、ADEの兆候も観察されました。ワクチンを接種した動物が同じウイルスに再び感染すると、さらに重い症状を示す個体がいたのです。ワクチンや創薬では動物モデル実験は避けられない過程ですが、そこでADEの兆候があった場合にはバイオテック企業や製薬会社はそのワクチン候補の開発を中止したり、別の候補に切り替えたり、ADEが起きた理由を調べたりします。なぜなら、動物実験はサンプル数が少ないので、もし同じ頻度のADEがワクチンを接種する人口比で起きたら大惨事になります。僕自身、フランス大手のサノフィで創薬のプロジェクトに関わっておりますが、少しでも動物モデル実験で悪いデータが出たら、すぐさま開発陣へストップがかかります。人命が関わっていることですから、そこは慎重に行われます。一方で、動物モデル実験はあくまでもモデルであり、人間と100%一緒ではありません。これらの動物モデル実験で観察されたことが、そのまま人間の体内で同じことが起きるわけではありません。このように、「動物モデル実験で悪いデータが出たら一旦停止」「動物モデル実験は人間と同じではない」ということは、我々創薬側の人間は深く注意を払っている部分です。

こうして、SARSのワクチン開発での経験は、今回の新コロナウイルスのワクチン開発にとって非常に役立ちました。まず、コロナウイルスワクチンが実際にADEを引き起こす可能性があることを予め知って注意しておくことができました。さらに、ADEはワクチンの素材となるタンパク質の種類によっても引き起こされる度合いが変わってくるということも予め知ることができました。過去のSARSワクチンの研究から、コロナウイルスのN(核タンパク質)抗原を標的としたワクチンにはADEの問題が強いことが分かっていました。一方、スパイクタンパクを標的としたワクチンでも一部ADEが見られましたが、スパイクを標的にした方が利点が多い(後述)ということがわかり、ワクチン開発もスパイクを標的にするのが現在は主流になっています。

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