医学博士に聞く、コロナワクチンに長期的な副作用はないのか?

 

ADE可能性の考察

これまでの研究によれば、新コロナウイルスは既往症のある高齢者の致死率が高
いことが分かっています。もし新コロナウイルス感染症が、最初に感染してできた抗体によるADEで重症化するのであれば、その過去の感染時期を反映した年齢層に重症例や死亡例が集まるはずです。しかしそのような例は新コロナウイルスに関しては今のところ見当たりません。

こういった過去の感染による「再感染重症化」や「年齢クラスター効果」のデータは、2001年にタヒチの子供たちの間で発生したデング熱の重症化によっても示されています。1988年から1990年に島全体で発生した血清型1および3の感染が起きましたが、その時に感染した子どもたちは免疫ができました。その後、1990年以降に生まれた子供たちは、1996年から1997年にかけての血清型2に感染に感染しましたが、血清型1と3には感染していませんでした。さらに数年後、2001年に血清型1の感染が広がった時、4歳から12歳の子供たちの多くが重症化しました。これに似た現象が新コロナウイルス感染でも観察されればADEのリスクが高いことを締め示しますが、今のところはそういった状況は見受けられません。もちろん、これから先数年を追って注意して観察していくことは重要です。

これまでのデータをまとめると、動物モデル実験では、ADEの兆候は見られませんでした。ヒトでの臨床試験でも兆候は見られませんでした。ワクチンの初期導入時にも兆候はありませんでした。そして今のところ、世界各地の変異株でもADEの兆候はありません。ワクチンを接種するかどうかの判断をする時に、これまでの情報を元にしてリスク判断をすれば、ADEは接種を拒否する理由の筆頭ではないように思います。もちろん、現存する他の変異種や、今後現れる変異種へ注意を向けておくことは重要です。一方で、ウイルスが変異するのは恐ろしいことであるようにも思えますが、実際にはウイルスと人類の進化の中でこれは日常茶飯事に起きていることです。そして科学者達はウイルスの変異に注意し、ADEを含めて感染のメカニズムのどこを注視しておくかを理解しています。

未来を心配する気持ちはわかりますが、心配しすぎても精神的に疲弊してしまいます。例えてみたら、車の運転中に交通事故に注意をする必要はありますが、「後ろから追突されるかも」と心配して常にバックミラーを見ていたらどうでしょうか?前を見ないで運転したら、そのうち逆に自分が追突して事故になります。避けられないリスクというのは世の中必ず存在します。しかし、小さなリスクに気を取られて心配して大きなリスクに目を向けない方がより危険です。ですから、皆さんにも不安に煽られて判断をせずに、しっかりと情報を確認してワクチン接種の判断をしていただきたいと思います。「無知」のままでいると「不安」がどうしても耐えません。逆に、「知る・学ぶ」ことで、不安は減ってゆきます。ただし、リスクというものは絶対に消えません。ワクチンを接種しようがしまいが、リスクはどちらにもあります。しかしそれぞれのリスクを正しく理解することで不安が消え、最適な判断ができるようになります。そうして、最善を尽くして最悪に備えることができるようになります。

参考文献

Arvin, A.M., Fink, K., Schmid, M.A. et al. A perspective on potential antibody-dependent enhancement of SARS-CoV-2. Nature 584, 353-363 (2020)

Scott B Halstead, Leah Katzelnick, COVID-19 Vaccines: Should We Fear ADE?, The Journal of Infectious Diseases 222, 1946-1950 (2020)

Lee, W.S., Wheatley, A.K., Kent, S.J. et al. Antibody-dependent enhancement and SARS-CoV-2 vaccines and therapies. Nat Microbiol 5, 1185-1191 (2020)

Lowe D., Antibody-Dependent Enhancement and the Coronavirus Vaccines. Sci Trans Med, Feb 2021

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