医学博士に聞く、コロナワクチンに長期的な副作用はないのか?

 

ワクチンはADEを引き起こすか?

さて、我々が気になるのは「ワクチンがADEを引き起こすか?」という疑問です。ワクチンに対してADEが起きてしまったらワクチンの意味がありません。そしてそういった例は実際に過去にありました。1960年代にRSV(呼吸器合胞体ウイルス)に対する不活化ウイルスワクチンが試されましたが、乳児がRSVを悪化させてしまうという結果でした。霊長類のRSVでもこの現象が確認されました。先のデング熱の例のように、非中和抗体を介してウイルスがより効率的に細胞内に侵入してしまったのだと考えられます。同様に、1960年代の不活化麻疹ワクチンの候補にも似た現象が観察されました。

では、新コロナウイルスに対するワクチンはADEを引き起こす可能性はあるのでしょうか?現段階では「その可能性は低い」と考えられており、今の所見通しはかなり良いです。ではなぜ「可能性は低い」かと言うと、そこにはADEが起きる時に関与する細胞のタイプがその可能性に関与しています。非中和抗体は、ウイルスを血液中の単球やマクロファージという免疫細胞に橋渡しをします。なぜなら、これらの細胞は非中和抗体に対する受容体を持っているからです。一方で、新コロナウイルスは幸いにも単球やマクロファージには生産的に感染できないという最近の研究結果が出ています。デング熱では単球やマクロファージが利用されてADEが起きていたわけですが、新コロナウイルスでは単球やマクロファージをうまく利用することができないという違いがあります。従って、デング熱に見られるようなADEはそれほど心配する必要はなさそうです。ウイルスも感染する細胞をより好みするのです。感染や増殖に適した細胞、そうでない細胞があるわけです。

しかし、理論上では先にも述べた「補体」という防御物質の制御を狂わせる経路はまだ残っており、実際、新コロナウイルスの重症患者に見られる「サイトカインストーム」と呼ばれる肺障害にはこの経路が活性化しています。100%懸念が消えたわけではありませんが、最近の論文では今のところ「ヒトのコロナウイルス感染症におけるADEの決定的な役割は確立されていない」とのことです。もちろん、ADEが起きないということではなく、起きているという確かな証拠が未だ確認されない、ということです。

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