(2) 被疑者Kについて
検察官は,被疑事実1(1)について被疑者Kを不起訴としたが,以下アないしウの理由から,この検察官の判断は,納得できるものではなく,改めて捜査が必要であり,不当である。
ア 第1に,あっせん利得処罰法違反における「請託」とは,「その権限に基づく影響力を行使」してあっせんすることを依頼するまでの必要はないと解されているところ,Bが被疑者Kに独立行政法人Cとの補償交渉1についてあっせんを依頼したこと,被疑者Kがこれを了承したことは関係証拠から明らかであり,「請託」の事実が認められる。
イ 第2に,あっせん利得処罰法違反における「その権限に基づく影響力を行使」したと認められるためには,あっせんを受けた公務員の判断に影響を与えるような態様でのあっせんであれば足り,現実にあっせんを受けた公務員等の判断が影響を受けたことは必要ないと解されているところ,あっせんを受けた公務員等の判断に影響を与えるような態様の典型例として職務権限の行使・不行使を交換条件的に示すことが挙げられるが,この典型例に当たる行為が認められないからといって,直ちに「その権限に基づく影響力を行使」したといえない訳ではない。
当該議員の立場や地位,口利きや働きかけの態様や背景その他の個別具体的事案における事情によっては,公務員等の判断に影響を与えるような態様の行為と認め得る。
被疑者Kは,前記のとおり,A社から独立行政法人Cに対する内容証明郵便が送付された後に,D秘書に独立行政法人Cにその確認をするように依頼し,D秘書は,事前の約束もなしに独立行政法人C本社を訪れてその職員と面談して,A社と独立行政法人Cとの本件補償交渉に関する内容証明郵便への対応を確認したが,A社と独立行政法人Cとの補償交渉という民事的な紛争の場面において,対立する一方当事者であったとしても,相手方の都合も聞かないまま突然,直接の担当部署でもない相手方の本社に訪問しても対応を断られるのが通常と思われる。
D秘書は,あくまでも第三者に過ぎないが,衆議院議員で,有力な国務大臣の一人である被疑者甘利の秘書であるからこそ,応接室に通され,独立行政法人C本社の職員らと面談し,前記の確認をできたとみるのが自然である。
D秘書が単に事実確認をするだけであれば,電話を独立行政法人Cの担当部署にかければ十分であり,事務作業としても効率的なはずである。
しかしながら,D秘書は,敢えて事前の約束もなしに独立行政法人C,しかもA社との補償交渉を直接担当している訳ではない独立行政法人C本社に乗り込み,面談を求めたのは,そういった行動が独立行政法人Cの判断に影響を与え得るものと判断しているからであると考えるのが自然である。
他方,独立行政法人C本社職員がわざわざ自らの業務時間を割いて,D秘書と面談し,補償交渉1に関する説明をしたのも,それをしないと不利益を受けるおそれがあるからと判断したとみるのが自然である。
また,被疑者Kとしても,補償交渉1の補償金額が増額された経緯を認識していないとしても,それに関して500万円もの高額の現金を受領したのであるから,それ相応の行為をしたという認識があったと考えるのが自然である。
ウ 第3に,Bが被疑者Kに供与した現金500万円の趣旨は,その交付日が増額された補償金の支払日と同一であること,供与された現金が500万円と高額であることを考慮すると,その交付の趣旨は,補償交渉1に関する補償金額が増額されたという結果に対する報酬,謝礼であるとみるのが自然である。
(3) 被疑者甘利について
以上のとおり,被疑事実1(1)について被疑者Kに関する再捜査が必要であるが,被疑者甘利が被疑者Kとの間で前記の被疑者Kの一連の行為について共謀していたことを窺わせる証拠はない。
よって,被疑事実1(1)について被疑者甘利を不起訴とした検察官の判断は相当である。
2 被疑事実1(2)について(あっせん利得処罰法違反)
関係証拠によれば,A社代表取締役のEが平成25年11月14日にBらA社関係者と共に被疑者甘利の大臣室を訪れ,被疑者甘利に直接現金50万円を手渡した事実が認められるものの,この訪問の目的や経緯も考慮すると,この現金50万円がA社と独立行政法人Cとの間の補償交渉1に対する報酬や謝礼として供与されたものとは認められない。
よって,被疑事実1(2)について,被疑者甘利及び被疑者Kをいずれも不起訴とした検察官の判断は相当である。
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