日本を襲う米国以上の危機。安全な我が国を「瞬殺」へと導く3つの大問題

 

1つは円安問題です。何度も言いますが、この間の円安は、多国籍企業が海外で稼いだ利益を「大きく見せ」、同じく多国籍企業が海外で形成した株価を「高く見せ」ただけです。勿論、円安にはデメリットがあり、日本の場合は特に化石燃料の輸入コストが高くなる点ですが、これはこの間の原油安で奇跡的に助かっていたわけです。

また円安の危険ということでは、日本の企業や技術が海外勢に買われるという問題ですが、これも「既に買う価値のあるものがない」、つまりは「国際基準での投資に対するリターンを期待できるモノは残っていなかった」ということで、何とかセーフで済んでいます。もっとも、2010年以前に気がつかない間にたくさん買われていたのは事実ですが。

というわけで、特に痛みを感じることなく円安をダラダラ続けてきたわけですが、ここへ来て、かなり厳しい状況になってきました。まず、日本としてはどうしても一定程度の化石燃料を輸入しなくてはならないのですが、これが高騰してきたわけです。ガソリン、灯油の価格も上昇し、一般消費者だけでなく例えば中小企業や農家などにもダイレクトなインパクトが行っています。

更に、木材、大豆、小麦などのコモデティ、そして再生可能エネルギーのための太陽パネルなども、ここまでの円安になると厳しさが出ています。一番問題なのは、デフレ経済のために人件費が抑制された結果、ただでさえ安くなっている日本の賃金水準が、ドルに倒すと極小になっている問題です。こうなると、一流の人材を国際労働市場から調達するのは難しくなります。また、日本から要員を海外の研究施設や工場などに駐在ベースで派遣するのもかなり難しくなります。

人の移動ということでは、海外への留学も非常に困難になってきます。反対に、円安は、訪日観光客の受け入れビジネスには追い風ですが、こちらは当分の間は「ゼロ」ですから折角のメリットが生かせていません。

2点目は、エネルギー問題です。グラスゴーのCOP26で、岸田首相は相変わらず「石炭火力の輸出をやめない」ということから、「化石賞」という悪名高い賞を受けてしまいました。このニュース、かなり恥ずかしいし、非常に問題だと思うのですが、日本のメディアはほとんどスルーの構えです。

この「化石賞」について積極的に取り上げていたのは、共産党の「しんぶん赤旗」だけでした。この党は「環境対策の結果、経済が死んでも全員が貧しく平等になってバンザイ」という極端な政党ですから、それ以外のグループは、この「化石賞」をスルーしたいということだと思います。

どうしてスルーしたいのでしょうか。日本というのは、世界における「評判」をとても気にする傾向があります。1980年代に「集中豪雨的輸出」だと怒られると、「良品を廉価で売って何が悪い」という正論を捨てて、「お詫び」に必死となり、ついに自国の経済を自爆させてしまったくらいだからです。

ですが、この「化石賞」については、誰も恥ずかしいと思わないわけです。というのは、経済を回しつつ、排出ガスを減らすには「もう少しだけ安全な原発を再稼働」しなくてはならないのですが、自民党も野党も、国民の「首に鈴をつけに行く」のを嫌がっているし、世論もこの問題を「直視するのを避けて」いるからです。

と言いますか、日本国内の無意識の合意としては、「原発は真っ黒だが、石炭火力は灰色」だという感覚があって、そこで罪悪感がないということになっているようです。ですが、問題は、世界の常識ということでは、少なくともグラスゴーとか、グレタ氏とかといったレベルでは「原発は白、石炭は真っ黒」という認識ですから、このズレというのは大変です。

これは全くシャレにならない話で、例えばですが、2030年ごろになって、日本を軍事的に挑発したい国が「日本の石炭火力をピンポイントで空爆する」と宣言して、これに反発したその時代の日本が「敵基地先制攻撃」の構えを取るようなことになると、その時点で国際世論を敵に回して、日本はゲームオーバーになる、そのぐらい怖い話だと思います。

とにかく、総裁選でも総選挙でも、岸田氏は「一定程度の原発再稼働」を言ってきたのですから、これは実行しないと前へ進めません。

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