3点目は、アジアの軍拡競争の問題です。総裁選と総選挙を通じて日本では「敵基地攻撃能力」についての論戦が盛んでした。基本的には対北朝鮮の話ですが、話が曖昧なままダラダラ続いたので、もっと一般的なようにも聞こえていたようです。
ですが、これはそんなに危機感を持って語られていたのではないように思われます。一番煽っていた安倍+高市コンビにしても、別に全くの空想的軍国主義者ではないわけで、それなりに政権中枢にいるリアリストでもあるわけです。にも関わらず、「敵基地攻撃能力」について、あれだけ大騒ぎをしたというのは、「いつもの保守アピール」という「内向きの話」という暗黙の前提があったように思います。
ここに計算違いがあります。この議論、実は近隣国の世論をかなり刺激しているからです。というのは、彼らとしては、昔の話とはいえ「日本の攻撃能力」に苦しんだ記憶があり、こうした話が出ると、条件反射的に反発するし、反発した世論を放置すると、政治家はクビになってしまいます。
ですから、この議論をこのまま放置しておくと、そのまま東アジアにおける軍拡競争が加速する危険があります。本当は、そうした場合には、日米同盟が「ビンの蓋」になって、周辺国に対して「あれは日本の国内向けの話芸、または日米での費用の負担比を変えるだけの話なので、過剰反応しないように」というメッセージが出るのですが、そのアメリカは「右も左も内向きの非介入モード」ですから、以前のような「仕切りの能力」はありません。
一方で、メーカーとか商社には、軍需という公共事業への誘惑は相当に強いものがあるわけです。そんな中で、円安がズルズルと危険水域に入ってきた中では、計算として軍拡競争へ回すキャッシュフローは限られます。
つまり「円安+緊張拡大」を求心力としてきた安倍路線というのは、テクニカルには成立しなくなっているわけです。では、岸田氏に「円高+緊張緩和」へと国策を転じるだけの決意があるかというと、ここからが難しいところです。
色々な経緯があって、外相に林芳正氏を据えるところまで来たわけですが、素直に「もう円安+アジアの緊張拡大」という路線は取れないので、「円高+アジアの緊張緩和」という方向に転換したい、として、参院選の前にこれをしっかりやる勇気があるのかは疑問が残ります。
仮に円安が続く中で、東アジアでの軍拡競争に日本が巻き込まれ、それでも日本が石炭を止められないという場合には、本当に日本の安全が瞬殺になる危険があるわけで、日本が直面する潜在的な危機はアメリカの比ではないように思います。
コロナ禍で傷ついても、アメリカはまだまだ「トランプごっこ」とか、「若者の支援する左派の極端な理想論」などに走る余裕があるのですが、日本にはそんな余裕はありません。国の安全を確保して存続させるためのゾーンは、かなり狭いと考えるべきです。
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