スシローやモスバーガーに学ぶ、新常態時代に勝ちを掴むマーケティング戦略とは

2022.03.31
 

外食企業はどう動いたか

外食業のなかにあって、コロナ禍による打撃が特に大きかったのは居酒屋である。居酒屋とは酒を飲み、食事をする場所であるが、胃袋を満たすことだけではなく、人と人が近しい距離で、リラックスして情報や意見を交わし、親好を暖めるという役割や楽しみが重要となる。

居酒屋業態の大手企業のワタミは、すでに脱居酒屋に舵を切っている。同社の渡辺美樹会長兼社長は、突如襲われたコロナ禍は「大皿でみんなでわいわいといった居酒屋の本質」を否定するものだったと述べている。この環境変化を受けてワタミでは、従前からの居酒屋業態の店舗の削減を進めている。一方で、テイクアウトにも対応しやすい唐揚げ店・フライドチキン店などを中心に、新たな出店を進めている。

さらにワタミは2020年5月の焼き肉、2021年12月の寿司など各種の専門店領域への新たな参入にも挑戦している。これについて渡辺氏は「飲食需要は食べたいものを明確に見定める『目的来店』の傾向が強まっている。すし業態と焼き肉業態の両輪でそれをつかみにいく」と述べる。加えてワタミではコロナ禍の発生以来、各種の店舗に配膳ロボットを導入したり、コロナ禍以前から参入していた高齢者向け宅食事業での利益を伸ばしたりしている。従来型の居酒屋はニュー・ノーマルのもとでは「不要ではないけど使われ方は変わる。それは否めない」との認識のもとでの多面展開である。

対する大手飲食企業はどうか。回転寿司のスシローは、テイクアウト専門店をはじめている。カフェのドトールは、郊外や地方への出店を広げている。モスバーガーは、モバイルオーダーを強化しながら、産地応援など時機を得た期間限定商品を投入している。

突然のコロナ禍がもたらした日本各所の店舗の空きスペースには、優良物件も少なくない。新しい生活様式や価値観も広がる。これらへの対応をにらんで、テイクアウトやデリバリーに対応できる業態への切り替えや、郊外のファミリー層などへの対応の強化、そして新メニューの開発を進める動きが広がっている。

ニュー・ノーマルのなかでのマーケティング

ニュー・ノーマルのなかでのマーケティングでは、予測や計画の正確さを求めていると、いつまでたっても行動を起こせないということになりかねない。間違いのない予測や計画を手にしたくとも、予測や計画の前提が次々に置き換わっていくのである。

このような日常において、どのようなマーケティング活動が求められるか。ワタミ、スシロー、ドトール、モスバーガーをはじめとする街の飲食店の動きは何を示唆しているか。

正確な見通しが立てにくい状況下でも、試行的にできることはある。置かれた状況で当面実行可能な可能性を見いだしては、素早く新しい行動を小さく繰り出せばよい。そして、はじめた行動の結果からのフィードバックを得て、変化する状況のなかで有効なアプローチを具体的につかみ、さらに新たな行動へと反映し、成長の可能性を取り込んでいくようにすれば、予測や計画の前提が次々に置き換わるなかでも、よりよく行動を続けていくことができる。正確な予測や計画に注力する戦略計画型のマーケティングにこだわる必要はないのである。

未来を見通せないなかでも、行動を続けていかなければならない

企業をとりまく市場環境の変化については、今後も予断は許されない。脱・戦略計画型のアプローチに見られる共通項は、行動を起こすことの重要性である。歩くことで棒に打たれることを避けようとするのではなく、行動をはじめることで生じる新たな気づきや情報の取得を活用しようとする。出る杭は打たれるが、打たれることによって新たな情報や気づきを獲得できる。この行動することがもたらすフィードバックを活用しようとするのが、脱・戦略計画型のアプローチである。

image by: image_vulture / Shutterstock.com

栗木契

プロフィール栗木契くりきけい
神戸大学大学院経営学研究科教授。1966年、米・フィラデルフィア生まれ。97年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。博士(商学)。2012年より神戸大学大学院経営学研究科教授。専門はマーケティング戦略。著書に『明日は、ビジョンで拓かれる』『マーケティング・リフレーミング』(ともに共編著)、『マーケティング・コンセプトを問い直す』などがある。

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