「安倍政権よりも右」ハト派だった岸田首相が過激な“タカ”に変貌せざるを得ないワケ

2022.04.30
 

最近、岸田政権がまとめた2022年版「外交青書」は、北方領土について「日本固有の領土であるが、現在ロシアに不法占拠されている」と明記した。

我が国の立場を示したのは当然と言えるが、実はこの「日本固有の領土」との表現は2011年版以来、「不法占拠」にいたっては2003年版以来の明記となる。

つまり、「タカ派」のイメージがつきまとった2012年末からの安倍政権でも打ち出してこなかった表現だ。

加えて、岸田氏が率いる自民党の安全保障調査会は、国内総生産(GDP)比2%以上の防衛費達成を目指す提言案をまとめるなど鼻息は荒い。

こうした動きに立憲民主党の小川淳也政調会長は4月21日の記者会見で「防衛費2%や敵基地攻撃能力など挑発的で、非常に悪乗りした議論だ」と批判する。

防衛費は、1976年に三木武夫内閣が「1%以内」におさえる方針を閣議決定したが、中曽根康弘内閣で撤廃され、1987年度から89年度に1%を超えた。

民主党政権時代の2010年度予算でも1%を超えているが、歴代政権はこの「目安」を意識した予算を編成してきた。

2022年度当初予算で防衛費は過去最大の5兆4000億円に上る。2021年度の防衛費はGDP比で0.95%、22年度は0.96%となる計算だ。

だが、岸田政権発足後初めての総選挙(昨年10月)で、自民党は「GDP比2%以上も念頭に増額を目指す」と公約。

首相は1月21日の参院本会議でも「金額、結論ありきではなく、現実的な議論の結果として必要なものを計上する」と述べており、従来の「目安」にはとらわれない考えを示す。

日本が「1%枠」にこだわる中、米国やロシアは3%を超え、中国の国防費は26兆円超を計上するなど大幅な伸びを見せている。

GDP比2%以上を目標に掲げる北大西洋条約機構(NATO)の基準を見ても、すでに撤廃されている枠に固執する必要はないとの解説はもっともだ。

ただ、敵基地攻撃能力の保有検討にしても、外交青書の表現にしても、「なぜ、あの岸田氏が…」という謎は残る。

その理由をある政府関係者が語る。「岸田政権の外交・安保分野を事実上牽引しているのは、安倍元首相です。外務省や防衛省で積み上げているというよりも、今は自民党の部会・調査会で議論されたことがそのまま通ることが多い。岸田首相は安倍氏の顔色ばかり気にしていますよ」

昨年秋の閣僚・党役員人事を機に首相とは距離が生じたと見られてきた安倍元首相だが、最近は首相と頻繁に面会し、メディアを前に積極的な発言も目立つ。

  • 「地域の平和と安定へ世界各国の協力が必要だと言っている日本が(防衛)予算を増やさないとなったら、笑いものになる」(4月21日のシンポジウム)
  • 「(防衛費には)NATO並みの目標を示していくべきだ」(4月14日、安倍派会合)
  • 「(敵基地攻撃は)基地に限定する必要はない。中枢を攻撃することも含むべきだ」(4月3日、山口市の講演)

さすがに「核共有政策」をめぐる議論は、被爆地出身の宰相には受け入れられなかったようだが、首相退任後も自ら発するメッセージ通りに岸田政権の政策を誘導している力を安倍氏が持っているのは間違いない。

かつて「闇将軍」として君臨した田中角栄元首相が中曽根内閣で影響力を持ったことを思い出させる。

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