観光立国と水際対策というのも大きなテーマです。オミクロン初期に国境管理を厳しくしたのには合理性はありますが、強毒性が否定された後もズルズルと鎖国を続けた結果として、観光産業は大きく傷んでいます。こういうことを、今後も感染症のたびに繰り返すのか、それとももっと合理的にやるのかは、IRにカジノをつけるかどうかといった問題よりも重要です。
その一方で、観光産業は「プラスアルファ」の経済としてリスペクトはしますが、大卒50%という超高学歴社会で観光立国というのは、国策として正しいのか、これも争点になると思います。勿論、観光公害がどうといった排外主義も困るのですが、特に地方などで無制限に観光産業に依存するのも国の設計として問題だと思います。そうした中長期の国家経営のセンスというのも厳しく問うて行かねばなりません。
地方ということでは、そもそも地方創生という言葉や怪しさ満点です。衰退に目をつぶり、耳に心地よい言葉を並べるというのは問題に対して真摯に立ち向かう姿勢ではありません。地方をどうするのか、これは「各地方が現役世代による21世紀の社会における経済活力」を維持することでしか解決しません。そのための方策を真剣に考える政治家の登場が待たれます。
この点は本当に高度な経営センスが問われるわけで、例えば本四架橋を3本かけ、全土を十文字に繋ぐ高速道路網を整備し、各県にジェット空港を整備した四国は、そのために消費も人材も産業も流出して非常に厳しい状態になっています。交通インフラが誤りだったわけではありません。そうではなくて、人とカネが流出するのではなく、流入する仕掛けが同時に必要だったのです。そうした地方経営に関する能力、視点、そうしたものも政治家や政党の見極めには必要です。
教育も大きな問題ですが、この分野は本当にマトモな国策のないままに、国家衰退の元凶となってきました。「お手手つないでゴール」式の結果平等、「思春期は成長期ではなく反社会的な反抗期だから統制一本」という性悪説、「入試は絶対的な客観性」という形式主義、泳げない人間が畳の上で手足の動作を教えるような英語教育など、右も左も腐敗し切った思考停止が今でも残っています。そこから抜け出すような問題意識を持っているかも、各候補者に問いかけて行かねばなりません。
最後に申し上げたいのは、ここまで述べてきたようなチェックポイントをクリアするような人材を、政治の世界に送り込む仕掛けが、この国には欠けているという問題です。私塾で政治経済を学んだなどというのは論外で、現実世界で経済や社会について事実に根ざした問題意識を獲得した人が政治家になるべきです。
いずれにしても、政党間の論議は貧困なままですし、今回の選挙戦でもそんなに改善はしないと思います。個々の政治家に注目して、隠された争点、つまり現在の日本がシビアに直面している諸問題について、まともな理解をしているのか、徹底的に掘り下げることで投票行動を決めるのがいいと思います。
※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2022年6月21日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
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