日本は侵略などされない。脅威を捏造し「防衛費倍増」する国民ダマシ

 

冷戦時代にはあった「旧ソ連の脅威」

冷戦期の日本は、ソ連極東に陸軍部隊45師団=50万人と海空戦力が配備されており、そのうちでも最強と言われた2つの機甲師団が先頭となって北海道に渡洋強襲上陸し、それを陸上自衛隊の戦車600両が迎え撃ち北海道の原野で戦車戦を展開。そのうちに青森県三沢の米空軍の対地攻撃機や沖縄県の米海兵隊が来援してソ連vs日米連合軍の全面対決になる――という「中心シナリオ」を持っていた。しかし冷戦終結と共にソ連はいきなり1/3~1/5の規模に激減させ、そのため「ソ連はもはや脅威ではない」ということになった。

《脅威の潜在性と現実性》

冷戦時代の終わり近くには、レーガン米大統領が旧ソ連を「悪魔の帝国」などと罵るのに悪乗りした米日のマスコミは「米ソ新冷戦が始まった」と煽り立て、今でも覚えているけれども『週刊現代』が「ある日突然、札幌のあなたのお宅の庭先にソ連の戦車が!」などという与太記事を毎週のように繰り出していた。そのせいで、青森の娘さんが稚内の若者のところに嫁に行く話がまとまっていたのに、青森の親が北海道は危ないからと言い出して破談になったという笑えない実話まであって、当時の北海道JCの会頭に「高野さん、この『東京発ソ連脅威論』の公害を止めてくださいよ」と懇願されたりもした。

そういうこともあり、自衛隊北部方面司令部の幹部に「週刊誌はこんな風に煽っているが実際はどうなの」かと問うたことがあった。彼はまことにスマートな論理派の軍人で、こう語って私を納得させてくれた。

▼ソ連の脅威は確かにあって、それに備えるのが我々の任務だが、「ある日突然、札幌に」ソ連の戦車が現れるなどということはあり得ない。

▼まず、脅威を語る場合に大事なことは、「潜在的脅威」と「現実的脅威」を峻別することだ。単にソ連極東にこれこれの部隊が配備され、これこれの装備をしているというだけではそれは「潜在的脅威」にすぎない。第1に、政治指導部において軍事のみならず政治、経済、文化などあらゆる要素を考慮したうえでそれでも日本を「侵略」することにメリットがあるとする「戦略的意志」があるかどうか。脅威=戦力×戦略的意志である。

▼第2に、基本的な地政的な環境ということがある。米ソ冷戦の「正面」はあくまで欧州であり、そこでは米欧のNATOとソ連・東欧のWPOが「いつでも来い」とばかり睨み合っている。その「西部戦線」が「異常なし」なのに「東部戦線」でいきなり「異常あり」ということは考えられない。西部先・東部後が基本である。

▼第3に、ソ連極東の前線部隊に予定された作戦を実行に移すだけの実体的(サブスタンシャル)な準備が整っているかどうか。実は、ウラジオストクにもナホトカにも、ソ連機甲師団を北海道に敵前上陸させるだけの輸送船がほとんど1隻もない。我々は、極東に輸送船の集結が始まったら、潜在的脅威が現実的脅威に「転化」したと判断し、臨戦態勢に入るだろう。

それで思い出すのは前原誠司のことである。彼は旧民主党の中では外交・防衛通ということになっていたが、2005年12月に訪米してジョージタウン大学CSICで演説、「中国の軍拡は現実的脅威」などと言って米軍産利権マフィアから絶賛を浴びた時、私は「何が外交・防衛通だ。脅威の潜在性と現実性の区別もつかないくせに」とボロクソに批判した。「現実的脅威」なら戦争準備に入るということだが、彼はもちろんその覚悟を持ってこの言葉を吐いていない。そこに彼の軽々しさが露呈していた。

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