12年前の震災で考えたことに優しく入り込む、芥川賞『荒地の家族』を読んで

 

第165回芥川賞受賞の『貝に続く場所にて』(石沢麻衣著)も同じく震災をテーマにした作品で、私の心に根を下ろす美しいストーリーであるが、こちらはファンタジーのような存在感で包んでくれたが、今回は少しグロテスクな現実を示しながらの、温かさ、である。

東日本大震災の日が近づくにつれて、毎年のように忘れたくない、と思う。あの震災でどれほど生きることに自覚的になったか、死ぬる人を崇めることの真理を得ようとしたか、それが自分の成長にどれほど影響を及ぼしているかは不明であるが、少なくとも今、自分が幸福に生きていることの基盤であることは確かである。

このような悲劇の上に幸福が成り立っていることは不思議であるが、その不思議は感謝という言葉で昇華するしかないと思う人間にとって、震災を題材にした作品はそこに新しい風を吹き込んでくれる。そこに新しい言葉を与え、新しい生きるを示してくれるのだ。

佐藤さんが示したストーリーは12年の歳月だからこそ、被災地に関わる人の心の奥底に共感される今の疼きなのだと思う。

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障がいがある方でも学べる環境を提供する「みんなの大学校」学長として、ケアとメディアの融合を考える「ケアメディア」の理論と実践を目指す研究者としての視点で、ジャーナリスティックに社会の現象を考察します。

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