海外ブランドの「ノースフェイス」「ナイキ」が日本市場を席捲する理由

 

「ナイキ」「プーマ」「アンダーアーマー」といった海外のスポーツブランドが日本市場を席捲しているのはなぜでしょう?今回の無料メルマガ『がんばれスポーツショップ。業績向上、100のツボ!』では、著者で経営コンサルタントの梅本泰則さんが、海外ブランドのマーケティング戦略と国内ブランドがとるべき戦略について解説しています。

 

国産スポーツメーカーのマーケティング戦略 

1.日本におけるスポーツブランド

「アリーナ」「ザ・ノースフェイス」「ルコックスポルティフ」「エレッセ」「スピード」「アンブロ」

もちろん、これらのブランドはご存知でしょう。では、これらのブランドを発売しているメーカーさんは、どこでしょう。

スポーツ用品業界の人なら、簡単な問題です。しかし、業界外の人には分からないかもしれません。

「アリーナ」「ルコック」「アンブロ」は、デサントが扱っています。「ザ・ノースフェイス」「エレッセ」「スピード」はゴールドウインです。どちらも有名なメーカーさんですね。

さらに、もう一つお尋ねします。これらのブランドは、どこの国のものでしょう。

「ザ・ノースフェイス」」はアメリカ、「アリーナ」はドイツ、「スピード」と「アンブロ」はイギリス、「エレッセ」はイタリア、「ルコックスポルティフ」はフランスです。

このように、メーカーさんは、さまざまな国のブランドを扱っています。実はアディダスも、かつてデサントが販売していた時期がありました。

このことに、日本のスポーツ用品市場の特徴が現れています。日本で売られているスポーツブランドには、海外のものが多いのです。

上にあげたブランドばかりでなく、ナイキ、プーマ、アンダーアーマーなど、世界的なブランドが日本市場を席巻しています。

どうして、こんなことになっているのでしょう。それは、メーカーさんにとって、日本の市場を拡げるのに、楽な方法だからです。

欧米の有力ブランドは、海外の有名なアスリートが使っています。そのことで、広告宣伝がしやすいです。国内の有名選手と契約を結ぶのも、難しくありません。

さらには、製品の機能も本国が研究開発していますから、日本で開発する必要がありません、デザインも本国で考えてくれるので、楽です。

ですから、今も、かなりの数のメーカーさん、問屋さん、商社が海外ブランドの輸入販売代理店となって、日本市場で販売しています。

そんな海外ブランドの数が多い日本市場ですが、国産ブランドも頑張っています。アシックス、ミズノ、ヨネックスが、その代表です。

2.国産ブランドの戦略

これら3社の2021年の売上は、次のようになっています。

・アシックス 4,040億円
・ミズノ   1,727億円
・ヨネックス  744億円

ナイキ、アディダスの日本国内売上は発表されていませんが、どちらも1,000億円ほどではないかと思います。世界有数のブランドに対して、国産メーカーは頑張っていると言えるでしょう。ちなみに、デサントの売上は1,088億円、ゴールドウインは982億円でした、

では、国内メーカーさんは、どんな戦略をとっているでしょう。

アシックス、ミズノ、ヨネックスの3社は、社名をブランドとして販売しています。ゴールドウインとデサントは、主に海外ブランドを扱うのが戦略です。

そして、それぞれにマーケティング戦略があります。マーケティングの基本は「誰に、何を、どうやって販売するか」を考えることです。

ゴールドウインとデサントは海外ブランドを多く扱っているので、ブランドごとに、マーケティング戦略が違ってきます。その分、メーカーさんとしては大変でしょう。

それに対して、アシックス、ミズノ、ヨネックス3社の戦略は、比較的近いです。「誰に」については、3社ともメインターゲットを競技者にしています。それも、中級レベル以上のプレイヤーです。

一方、「何を」については、3社の間で明確に異なっています。アシックスの主力商品は、陸上、ランニングで、それもシューズです。ミズノは、野球とゴルフ。ヨネックスはバドミントンとテニスを主力としています。

ところが、ここからが難しいところです。さらに売上を拡大しようとすると、主力以外のスポーツの市場が目に入ります。それで、自社のメイン市場以外にも手を広げることに。

たとえば、ミズノは、サッカー、陸上、ランニングにも力を入れています。アシックスは、サッカー、テニス、野球などに、ヨネックスは、ゴルフ、ウオーキングに、といった具合です。それぞれ、うまく行っている市場もあれば、そうでない市場もあります。

3.今後の戦略

さて、マーケティング要素の3つ目は、「どうやって」です。その基本は、3社ともよく似ています。有名な選手とスポンサー契約をしたり、大きな大会のスポンサーとなったりして、ブランドの露出をするのが、主な戦い方です。

ところが、スポーツという点では同じでも、それぞれの市場での攻め方は同じではありません。競技組織の持つ歴史や、文化、考え方が違います。ですから、攻める競技市場を増やすほど、その分、手間暇がかかってしまうのです。

たとえば、どのメーカーさんも、関係組織との人脈を太くしようとしますし、選手やチームとのつながりを強くすることに力を使います。それぞれの組織からの要求にこたえる必要がありますし、選手やチームをサポートする体制を作らなくてはなりません。そのため、手間暇がかかってしまいます。あまり市場を拡げないで、得意分野に絞った方が良いと思うのですが、どうでしょうか。

いずれにしても、メーカーさんにとって重要なのは、国内市場です。ですから、まずは国内市場で、「誰に、何を、どうやって」提供するかをしっかり決めて、市場を拡大していくことが求められます。

しかし、最近はそうも言ってはおられません。この先、日本のスポーツ人口は減っていくと思われるからです。そのため、メーカーさんは、海外市場を狙うことになります。アシックス、ミズノ、ヨネックスの3社も、同じです。

どのメーカーさんも、欧米の市場も狙ってはいますが、力を入れているのは、中国、東南アジア。今のところ、うまく行っているようです。とはいえ、海外市場を攻めるのは簡単ではありません。

海外進出については、大前研一氏が良いことを言っています。「大前研一戦略論」(ダイアモンド社)の中で訴えているのは、次の5つのステップです。

  1. 現地の卸売業者や流通業者と取引をして輸出する
  2. 現地に自前の販売ネットワークを築く
  3. 進出市場で、生産、マーケティング、販売を手がける
  4. 進出市場で製品開発を含むビジネスシステムを築く
  5. 事業運営を無国籍化する

このステップの順番を間違えると、進出はうまく行かないと言います。それぞれのメーカーさんは、今、それぞれの地域で、どの段階にいるのでしょう。

いずれにしても、メーカーさんには、国内市場を固めながら、海外市場の拡大を図って欲しいです。そんなマーケティング戦略を採ってもらいたいと思っています。

■今日のツボ■

・日本のスポーツ用品市場には、海外ブランドがあふれている
・その一方で、国産ブランドメーカーは、海外市場での拡大を図っている
・日本市場を固めながら、海外進出をする必要がある

image by: JHVEPhoto/ Shutterstock.com

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ワン・トゥー・ワンコンサルティング代表。スポーツ用品業界での経験と知識を生かし、業界に特化したコンサルティング活動を続ける。
スポーツ用品業界在籍33年の経営コンサルタントが、スポーツショップの業績向上法について熱く語ります。スポーツショップのために書かれた、日本初のメルマガです。ここには、あなたのお店がかかえている問題を解決するヒントがいっぱいです。

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【著者】 梅本泰則 【発行周期】 週刊

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