日本を愛した音楽家フランシス・レイの楽曲を日本で奏でたい。日本人ヴァイオリニストが『男と女』『白い恋人たち』を今も演奏しつづける理由

2023.09.15
by gyouza(まぐまぐ編集部)
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いまも世界中の人々に愛されているクロード・ルルーシュ監督の仏映画『男と女』(1966)と、その主題歌。「♪ダバダバダ、ダバダバダ〜」というスキャットが印象的なあの曲を作曲したのが、言わずと知れた音楽家フランシス・レイ(1932-2018)です。フランシス・レイは、日本でも大変人気の高い音楽家で、『男と女』のほか『白い恋人たち』などのヒット曲でも知られています。

大の親日家であった彼は、過去に一度だけ来日したものの飛行機恐怖症のため再来日がかなわず、2018年に86歳で逝去しました。そんなフランシスのオーケストラを連れて、フランシスの愛する日本で代表曲を奏でたい。そんなフランシスの遺族らの想いが呼んだ縁によって、一人の日本人女性ヴァイオリニストへ「白羽の矢」が立ちました。その人の名は「レイナ・キタダ」。単身18歳で渡仏しヴァイオリニストとなった彼女とフランシス・レイ音楽との出会い、そして来る10月16日から始まるフランシス・レイオーケストラの追悼コンサート日本公演の実現までの道のり、そしてフランシスのカヴァー曲を収録した彼女のソロアルバムについてもお話をおうかがいいたしました。(撮影・取材協力:東京・御茶ノ水 book Cafe『エスパス・ビブリオ』)

アー写

レイナ・キタダ:
1985年東京生まれ。居住地 パリ/東京。4歳よりバイオリンをはじめ、18歳の時にフランスを代表するバイオリニスト、ディディエ・ロックウッドが主催する音楽学校ソントル・デ・ミュージック・ディディエ・ロックウッドに日本人として初めて入学。その後パリの国立地方音楽院、コンセルバトワール・ナショナル・ドゥ・ドーベルビリエ・ラクルヌーブのディプロマ取得コースを卒業。在学中から日本とフランスで演奏活動を開始。たこやきレインボー、岸谷香、GLIM SPANKY、ダニエル・ビダルなどのレコーディングに参加。2021年11月5日 パリ Grand Rexで行われたフランスを代表する作曲家Francis Lai(フランシス・レイ)の追悼コンサートに日本人として唯一出演し注目を浴びる。

音楽家フランシス・レイの楽曲を、彼の愛した「日本」の地で。日本人ヴァイオリニスト「レイナ・キタダ」単独インタビュー

──この度は、お時間をいただきましてありがとうございます。実は、私が高校2年生のとき、よく聴いていたTOKYOFMの長寿ラジオ番組『ジェットストリーム』の中で、クロード・ルルーシュ監督の映画音楽特集がありまして、その放送をエアチェック(カセット等に放送を録音すること)して聴いたのが、フランシス・レイの「男と女」との出会いでした。以来、「白い恋人たち」などの名曲も作曲していた人だと知ってずっと興味がありました。フランシス・レイ音楽との出会いはのちほどお聞きするとして、まずはレイナさんがヴァイオリニストになったきっかけからお話しいただいてもよろしいでしょうか? フランスに長いことお住まいだったそうですが、日本生まれですよね?

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撮影地:東京・御茶ノ水 book Cafe『エスパス・ビブリオ

レイナ・キタダ(以下、レイナ:はい、日本生まれです(笑)。ヴァイオリンをはじめるようになったきっかけは、当時テレビで見たCMだったんです。女優さんがヴァイオリンのケースを持って電車のホームに立っているCMだったんですが、私はテレビ向かって母親に「これが欲しい」って言ったんです。でも、中身が何かはわからなくて、とにかくあのケースが欲しかったんですね(笑)。でも、母親は「ああ、この子はヴァイオリンが欲しいんだな」ってヴァイオリンをプレゼントしてくれました。私はとにかくケースだけが欲しかったので、中からヴァイオリンを取り出して、ケースの中に大好きなぬいぐるみを入れて、それをバッグ代わりにずっと持ち歩いていたんです(笑)。ずっと放置されているヴァイオリンを見た親から「そろそろ弾いたら?」と言われて弾き始めたのがヴァイオリンを手にしたきっかけです。それが3歳くらいですね。

──最初はケースだけが目的だったんですね。ずいぶん早くからヴァイオリンに興味を持ったんですね、ケースではありますが(笑)。

レイナ:そうですね、そこからヴァイオリンを習い始めました。その後、武蔵野音大の附属の幼稚園に入学しまして、小・中・高は国立音楽大学の附属校に通っていました。高校2年生になって、進路を書かなきゃいけないときに「私はクラシック音楽じゃないな」って思ったんです。というのも、父親がジャズ好きで子守唄がジャズのレコードみたいな環境で育ったんですね。父親の知り合いだったピアニストの板橋文夫さんとかヴァイオリニストの太田惠資さんが、私の小さな頃から一緒に「音遊び」をいっぱいしてもらっていて、ジャズはとても身近な存在でした。学校はクラシックでしたけど、昔からジャンルの境界線は特に感じていなくて、同じ「音楽」として触れ合っていたんです。

──なるほど、少しづつジャズに興味を持ち始めたわけですね。

レイナ:そのうち、だんだんジャズの方が面白いなと思うようになって、太田惠資さんに「私、ジャズの方がいいと思うんですけど、どうですか?」って聞いたら、太田さんが「フランスにディディエ・ロックウッドっていうジャズ・ヴァイオリニストがいるよ。彼がフランスで音楽学校をやってるから、もし本気でジャズをやりたいなら自分で調べて連絡とってみたら?」って言われたんですね。そこで自分で連絡を取って、フランスまでディディエに会いに行きました。学校をたずねたら偶然、授業をしていたディディエがいて、その場で「何か弾いてみなさい」と言われたので、ヴァイオリンで日本の「赤とんぼ」を演奏したんです。そしたら「素晴らしい美しい曲だ!」って興味を持ってくれました。

──いきなりフランスへ行ったのもすごいですが、その場で「赤とんぼ」を演奏したレイナさんの度胸もすごいですね。

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撮影地:東京・御茶ノ水 book Cafe『エスパス・ビブリオ

レイナ:入学には履歴書とモチベーションレターと、ジャズを演奏したデモの音源が必要だったので、当時は周りにジャズを演奏してくれる人が板橋文夫さんしかいなかったので、板橋さんに「デモの音源いっしょに録ってください」って頼みました。その後、メールで合格通知が来ていたのに、当時は英語もフランス語もまったくできなかったから、そのメールを1ヶ月くらい放置してしまって(笑)。その後、いろいろやりとりをしてフランスに行くことになりました。それが18歳のときです、そこからフランスでの生活が始まりました。

──ジャズに興味があったとはいえ、語学もできないのにフランスへ移住って、とても行動的ですね。

レイナ:あまり遠い国だとは思っていなくて、近所のスーパーに行ってくる感覚で、親にも「行ってきまーす」みたいな感じで。実際には遠かったですね、片道12時間くらいかかりますから(笑)。現地では、語学学校もないので辞書を引きながら完全に独学でフランス語を覚えました。その後、パリの国立地方音楽院「コンセルバトワール・ナショナル•ドゥ・ドーベルビリエ・ラクルヌーブ」で、現代音楽の室内楽を学んだりヴァイオリンの国家資格のようなものをとったりして卒業しました。そこに在学中のときから、すでに日本とフランスで演奏活動を開始しています。それから、日本とフランスを行ったり来たりするようになりました。最近ではコロナがあったり、戦争があったりで、なかなかフランスに行けなくなったので、ここ2年くらいは日本での活動が中心になっています。

フランシス・レイ追悼コンサートで、唯一選ばれた日本人

──レイナさんは2021115日にパリのGrand Rexで行われた、フランスを代表する音楽家フランシス・レイの追悼コンサートに日本人として唯一出演し、注目を浴びました。今回、そのフランシス・レイの追悼コンサート日本公演が2023年10月16日の東京公演を皮切りに、全国(東京・仙台・名古屋・大阪)で開催されますが、この日本公演にも参加されるんですよね。

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『Francis Lai Orchestra Japan Tour 2023「Francis Lai Story」』

レイナ:そうです。日本人は私を含めて全員で8人参加するんですが、私とミュゼットデュオ『Authentic Midget Orchestra』を組んでいるアコーディオ二ストの田ノ岡三郎さんもその一人です。

──そもそも現地パリでおこなわれた、フランシス・レイの追悼コンサートに日本人で唯一出演することになった経緯を教えていただけますでしょうか。

レイナ:知り合いだった音楽評論家の永瀧達治さんから連絡があって「音楽家のフランシス・レイを知ってるか?」と。詳しくはないけど「もちろん知っています」と言ったら、「実はフランシス・レイのコンサートをオーガナイズしているティエリー・ウォルフという人が、フランシス・レイの追悼コンサートを企画していて、彼が日本人のアーティストを探しているんだ」と言うんですね。「誰か推薦してくれないか」と言われた永瀧さんが「レイナもその中に入れていいか?」って。その後、ティエリーから「何か音源を送ってくれ」って言われまして、2012年に出した「I don’t know」っていうふざけた曲があるんですけど、それを送ったんです。するとティエリーから「みなさんの音源とプロフィールをレイの親族会議にかけた結果、彼らが望んだのはレイナ、あなたです」と、ご遺族の方々に選んでいただいたんです。

──それは本当に光栄なことですね。

レイナ:なぜティエリーが日本人の参加者を探していたのかというと、フランシス・レイという音楽家は日本が大好きで、日本の音楽も文化もスポーツも大好きだったんだそうです。レイは70年代に一度、来日しているんですけど、帰りの飛行機が乱気流に巻き込まれて激しく揺れたことで、飛行機恐怖症になってしまったそうなんですね。それ以来、日本には二度と来ることはなかったんだそうです。そんなことがあって、日本からどうしてもアーティストに参加してほしいっていうご遺族の希望があって、日本人のアーティストを探していたということでした。

──なるほど、そういう経緯があって日本人を探していたんですね。

レイナ:私も、そんなフランシスの遺族の思いに応えようと、わずか1分半の曲のために、飛行機で12時間かけてフランスへ行きました(笑)。でも、彼がもう一度行きたかったであろう日本から、日本人ただ一人として追悼公演で歌うっていうのは、私の中でとてもドラマチックで、ストーリーがあるなって感じました。これがきっかけとなって、再びフランシス・レイ追悼コンサートの日本公演にも参加することになりました。

メジャーデビューアルバムでフランシス・レイのカヴァー曲を収録

──とてもいいお話ですね。そんなレイナさんは、9月27日に発売するメジャーデビューアルバム『Dans L’AIr(ダン・レール)』でも、フランシスの曲をカヴァーしているんですよね。

レイナ:はい、このデビューアルバムで4曲のカヴァーを収録しています(「白い恋人たち」「占領下のパリ」「男と女」「ママの想い出」)。

Web

Reina Kitada『Dans L’AIr(ダン・レール)』

フランシスのカヴァー曲は、この人と一緒にやったら面白いだろうなという方々と作りました。ピアノの板橋文夫さんとは「占領下のパリ」を、ヴァイオリンの師匠である太田惠資さんとは「ママの想い出」をレコーディングさせていただきました。アルバムのラストを飾る「ママの想い出」には、私の大好きな太田さんのボイスも曲の終盤に登場します。ぜひ、多くの方に聴いていただきたいですね。

──本日は、お忙しい中ありがとうございました。レイナさんも参加される10月16日からのフランシス・レイ追悼コンサートが今から楽しみです。フランスからクロード・ルルーシュ監督も駆けつけるという今回のコンサート、読者のみなさまにも是非お聴きいただきたいと思います。

撮影・取材協力:東京・御茶ノ水 book Cafe『エスパス・ビブリオ

協力:濱田髙志
   寺井智子(ソニー・ミュージックレーベルズ)


フランシス・レイ コンサート情報

フランシス・レイ追悼公演「Francis Lai Story」2023年10月開催決定!
初日の東京公演には映画監督・クロード・ルルーシュも来日!

フランシス・レイの推挙をもとに彼が創設した公式フランシス・レイオーケストラによる追悼コンサートの日本初公演が開催されます。楽曲の構成は35年にわたってレイのプロデュースをしてきたティエリー・ウォルフとレイの遺族によるもの。今回の日本公演ではフランシス・レイの遺作となった作品『The Final Dot』も披露されます。この曲はパリ公演でも未発表で、今回の日本での演奏が世界初公開。ゲストに、レイナ・キタダをはじめ、日本でも人気の高いクレモンティーヌ、アンヌ・シラ、ロレーヌ・ドゥヴィエンヌなど豪華アーティストが出演。東京公演初日には、レイの盟友である『男と女』のクロード・ルルーシュ監督が舞台挨拶。この豪華メンバーによる歴史的瞬間をお聴き逃しなく。

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■Francis Lai Orchestra、初来日!

この追悼コンサートはパリのGrand Rexでフランシス・レイ・オーケストラによって初演されました。メンバーはフランスのトップミュージシャンで構成され、全員フランシス・レイと特別なつながりを持っています「男と女」「ある愛の詩」などの著名な音楽を当時の写真や映像を交えて、再び体感することができるコンサートをお届けします。

■東京公演特別ゲスト

Claude Lelouch(クロード・ルルーシュ)

フランス映画界の巨匠であり、多くの作品でフランシス・レイが映画音楽を手掛けています。今回、東京公演にあわせて日本に来日し、特別ゲストとして参加することが決定しました。

■ゲスト シンガー

Clementine(クレモンティーヌ)
Reina KITADA(レイナ・キタダ)
Anne SILA(アン・シラ)
LORENE DEVIENNE(ロレーヌ・ドゥヴィエンヌ)
Katia PLACHEZ(キャティア・プラシェ)

■公演概要

公演名:Francis Lai Orchestra Japan Tour 2023「Francis Lai Story」

日時・会場

10月16日(月)18:00 【東京】東京国際フォーラム ホールC
10月17日(火)18:30 【仙台】東京エレクトロンホール宮城
10月20日(金)18:30 【名古屋】日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
10月21日(土) 17:00 【大阪】サンケイホールブリーゼ
10月22日(日) 15:00 【大阪】サンケイホールブリーゼ

演奏 Francis Lai Orchestra

チケット代

東京公演 SS席:13,500円 S席9,500円 A席7,500円 B席5,500円
仙台、名古屋、大阪公演  SS席:12,500円 S席8,500円 A席6,500円 B席4,500円

チケットぴあ情報ページ
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2344105

レイナ・キタダ情報

新世代バイオリニスト、フランスで注目を集め、満を持して日本メジャーデビュー。
レイナ・キタダ『Dans L’AIr(ダン・レール)』
2023年9月27日発売

Web
MHCL-3052 ¥2,500(税込)

レイナ・キタダが満を持して、ジャズ・バイオリニストとして、初のメジャーデビューアルバムをリリース。フランシス・レイや金子隆博(米米CLUB・BIG HORNS BEE) のカバーと、自身のオリジナル曲を含む11曲は、ジャズという枠組みだけでなく クラシック、ポップス、ワールドミュージックなど、様々なジャンルを超えて紡ぎ出されるオリジナリティ溢れる音楽となっています。

参加ミュージシャンは、ジャズ方面からはピアノの板橋文夫、バイオリニストでありボイスの太田惠資、パーカッションの岡部洋一、スティールパンの伊沢陽一、クラシック畑からはクラリネット奏者の中ヒデヒト、ハープの新井コルチ薫、ソプラノ歌手の長田有加里が参加。そしてロック畑からはソウルシンガーのSaltie、ドラマーのGRACE が参加。レイナ・キタダの音世界を見事に彩っています。

<収録曲>
1.白い恋人たち
2. Snow Bal Musette
3. Reina’s Waltz
4. 占領下のパリ
5. 男と女
6. Masarascope
7. かなたへの海2
8. ルージュ
9. ラジオのように
10. 渡良瀬
11. ママの想い出

■「Dans L’Air」特設サイト 
https://www.110107.com/reinakitada

■Reina Kitada Sony Music Official Site
https://www.sonymusic.co.jp/artist/ReinaKitada/

 

フランシス・レイオーケストラ来⽇記念 フランシス・レイ ベストアルバムリリース

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『フランシス・レイ ベスト』

フランシス・レイの代表的な名曲を厳選︕ ヴォーカル曲は、レイ本⼈のほかニコール・クロワジー ユ、ピエール・バルーら歌⼿陣に加え、シルヴィア・クリステル、クラウディア・カルディナーレら往年の名⼥優たちも参加。また、フランシス・レイのアコーディオン・ソロ曲も収録。 シャンソンの流れをくむメロウでロマンティックなメロディーが満載。

【収録曲】 男と⼥、ある愛の詩、⽩い恋⼈たち、 愛と哀しみのボレロ他22曲  

WTKC-1001
2023年10⽉11⽇発売
2,500円(税込)

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WAKITA MUSIC PLANNING JAPAN

image by: MAG2 NEWS編集部(於:東京・御茶ノ水 book Cafe『エスパス・ビブリオ』)

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