たった6千円の賃上げ。労働に見合わぬ待遇で施設を去る職員たちの現実

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高齢化が進む我が国にとって、なくてはならない介護職員。しかしその待遇はあまりに低く、離職者が後を絶ちません。このような状況に有効な打ち手はあるのでしょうか。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では健康社会学者の河合薫さんが、介護職員の賃上げ額について「6,000円が妥当」とした厚労相を「現場を知らなすぎる」と批判。さらに「今すぐできる策も取り入れるべき」として、仕事の分業化など具体案を提示しています。

プロフィール河合薫かわいかおる
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

介護職員の離職者が急増。「スズメの涙」賃上げと“壁の向こう側”で起きていること

「介護職員の賃上げを実施するぞ!」と、武見敬三厚生労働相が明言しました。

その額は「月6,000円程度が妥当」(by 武見大臣)

その目的は「賃上げによって他産業への人材流出を防ぎ、人手不足を緩和する狙い」(by武見大臣)だとか。

確かに介護職員の賃上げは必要です。しかし、たったの6,000円引き上げたところで、どうなるというのでしょうか。スズメの涙…。ないよりマシですが、問題解決にいたるわけがありません。

介護職員の平均給与は22年に月29.3万円で、全産業の36.1万円より6万円以上少なくなっていました。「23年は賃上げの年!」と年明け早々メディアも経済界も盛り上がっていましたが、介護事業所の賃上げ率は1.42%で、全産業の平均3.58%を大幅に下回ります。

おそらくそういった事情も大きく影響しているのでしょう。介護職員の離職者が増え、サービス業などに転職するケースが増えているのです。

厚労省によると、2022年は離職した人が新たに働き始めた人を上回り、就労者が前年より1.6%減少していました。若い人だけでなくベテランの離職も深刻で、全国老人保健施設協会など介護団体による調査では、10年以上の経験がある正社員の23年の月平均離職率は21年の1.45倍に上り、このうち13%が他業種に転職していることがわかりました。

武見大臣は、川崎市内の介護施設を視察し「人材不足でサービス提供が危機的事態になっている」との認識を示した上で、「6,000円が妥当」と答えてようですが、この国はいったいいつになったら、介護問題の深刻さを「自分ごと」として考えてくれるのでしょうか。壁の向こうの人たちは介護の現場のことを知らなすぎる。知ってるつもりになってるだけ。上から見下ろしてるだけです。

これまでも、それロボットだ、Iotだ!やれ外国人だ!と問題が起こるたびに夢の対策花火を打ち上げてきました。

しかし、いわずもがな介護施設は「人」です。「人」なんですよ。見守りセンサー一つとっても、「どうすれは拘束にならないか?」「どうすればプライバシーの侵害にならないか?」の議論が不可欠です。

どんな便利な機器であれ、そこに「人」がいる以上、人の尊厳を最大限に守る必要があるので、「はいはい、使いましょ!」とはなりづらい。ちゃんとやってる施設であればあるほど、利用者さんの尊厳と自由を最優先に考えます。

6,000円?一桁間違えているのでしょうか?それだったらわかります。

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