100日連続勤務で残業200h超。26歳医師が“過労自殺”も過重労働を認めない甲南医療センターの言い逃れ

 

確かに、以前に比べれば多くの企業で長時間労働は改善されています。しかし、「自己研鑽」という抜け穴をいまだに都合よく利用する姿勢には怒りしか湧いてきません。

そもそも過労自殺は、長時間労働が直接的な原因ではありません。過労自殺は、仕事上の強い心理的負荷により、生きる力がなえた末の死です。重い責任、過重なノルマ、達成困難な目標設定などにより精神的に追い詰められ、長時間労働で肉体的にも極限状態に追い込まれる。特に“overwork”すなわち「自分の能力的、精神的許容量を超えた業務がある」という自覚が強まると、過労自殺を招く確率が高まります。

本当はSOSを出したいのに、受け止めてくれる人がいない。本当はもっと生きたい。でも、生きているのがつらい――。その葛藤に疲れた末路が、「死」という悲しい選択なのです。

「人」の命は何よりも重いことを否定する人はいません。しかし、「人」が「労働者」になった途端、命が軽んじられている。「人」を守るはずの医療の現場で、「労働者=人」が悲しい選択を余儀なくされているのです。

しかも、当直勤務を労働時間にカウントしない病院も増え続けている。「宿日直」の許可を受ければ、労働時間に含まなくていいというルールがあり、許可件数は年々増加。2021年144件、2022年233件、2023年は9月の段階ですでに734件に上り、前年の3倍超の件数に。医師の時間外労働の上限規制が適用される24年の4月にむけ、さらに増えたとされています。

アメリカでは当直は労働時間として算定され、当直時間を含めて週80時間の上限を設定。外部へ出張して当直する時間に関しても、勤務先の労働時間に合算されます。EUも同様に当直を労働時間として算定する体制が整備されていて、当直に関しては、active on-call(院内当直に相当)とinactive on-call(宅直に相当すると考えられる)の両者が定義され、労働時間とみなされています。

つまり、病院内に滞在して診療に従事するactive on-callだけではなく、電話相談をするだけで登院する必要のないinactive on-callに関しても労働時間に含まれているのです。

自己研鑽問題は、欧米にもありますが、労働時間が徹底的に管理されているので、日本と違い、自分の時間を取りやすい。しかも、論文などを発表する学会によって病院名で発表する場合や、医師の個人名で発表する場合があるので、病院側と事前に相談して「労働時間に含めるか否か」を決めるのが一般的です。

なぜ、欧米の当たり前が、日本の当たり前にできないのか?「医師は労働者じゃない」と言う人もいますが、雇われている以上医師であれ労働者であり、「人」です。

過労自殺という言葉がない社会にするには、何が必要なのか?

改めて考えてみたいと思います。

みなさまのご意見、感想、経験などお聞かせください。

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
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