「拉致被害者救出ではなく北朝鮮打倒」が目的の救う会
上掲書には、福澤の章だけでなくどの章もが大事な内容を含んでいる。編著者の和田春樹は、第1章で「日朝国交交渉と拉致問題の経緯」を要領よく整理してまとめた後、第2章では「拉致問題の真実とその解決の道」と題して、特にその第3節「拉致被害者の運命/北朝鮮における生と死を考える」では、本人の弁によれば「これまでタブー視されてきた拉致被害者の生死問題に立ち入って論じている」(はしがき)。これも、安倍3原則の第3項への正面切った挑戦である。
02年の小泉訪朝時に北が認めた拉致被害者は13人で(日本側が指摘する他の2人については「入境」の事実を認めていない)そのうち8人は既に死亡したとしていた。和田はこれらの8人と「入境していない」とされる2人について、これまでに伝えられた消息情報を吟味し、北側の発表をどこまで信じられるかを判定している。詳しくは本書を読んで頂きたい。
また蓮池透は第5章「救う会と家族会の20年/「救出」から「北朝鮮打倒」への変質を問う」を書き、自らが家族会の事務局を追い出される至った経過を述べつつ、次のように述べていて印象的である。
残念なことだが、最近思うのは、家族会は本当に救出を望んでいるのだろうか、ということだ。私は首をかしげざるを得ない。少なくとも救う会の目的は、「救出ではなくて北朝鮮打倒」だ。また、右派の政治家たちにとって拉致は、日本が持っている唯一の「被害国カード」なのである。日本が植民地支配をした歴史について「加害国」と言われることへのカウンターとして「拉致問題で日本は被害国」だと言い立てる。だからこのカードは、絶対に手放したくないのだ。救う会も特定失踪者問題調査会も同様だ。拉致問題は未解決のまま長続きした方がいい。なぜなら、拉致問題が彼らの生業だからなのだ。
安倍が総理に上り詰め長く政権を維持することが出来た大きな要因の一つは、「拉致問題で勇ましく戦う指導者」という幻影を巧みに利用して家族会のみならず国民を騙し続けたことにあった。今やブルーの「やっているふりバッジ」を安倍とその追随者たちの胸から引き剥がすべき時である。
(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2024年5月20日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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