政治とは「矛盾のマネジメント」である
政治とは何かという問いに対する1つの答えは「矛盾のマネジメント」である。
毛沢東に即して言えば、1937年に盧溝橋事件から上海事変へという日本軍の対中侵略の本格化という局面変化を受けて、それまで血で血を洗う泥沼の内戦を繰り広げていた国民党政権と共産党反乱軍が急遽和解・停戦して共に日本の侵略に立ち向かうことに合意した「国共合作」がその鮮やかな一例である。
それ以前は、中国国内における国民党=資本家&買弁勢力と共産党=労働者・農民との間の国内階級矛盾が中国情勢の「主要矛盾」であり、その矛盾の性格は致命的に敵対的=非和解的矛盾であったけれども、日本の対中侵略が本格化すると中国と日本の国家・民族間の敵対関係が「主要矛盾」に成り上がり、国民党vs共産党の対立は「副次的矛盾」に格下げになる。その瞬間を捉えて国共合作の政治工作を仕掛け、中国の持つ全ての力を対日戦争に集中させるというのが、巧みな政治戦略だった。
このように、局面変化に応じた「主要矛盾」の変化、すなわちその局面での主要課題の転換を鋭く察知してそれに応じた戦略方針を機敏に打ち出すことこそ、政治家の仕事であるはずだ。
日本での一例を挙げると、古い話で恐縮だが、1994年の村山政権の誕生がある。93年8月に細川政権が成立し「55年体制の崩壊」ということが言われたものの、後継の羽田政権を含め改革派政権は10カ月しか持たず、自民・さきがけ・社会3党の村山政権が誕生した。私はこれに大反対で、何故ならこの時の政局の主要問題は「どうしたら自民党を引き続き野党の立場に押し込めて塩漬けにし、金権・腐敗体質を徹底的に改変出来るか」であり、従って、その時の日本政治の「主要矛盾」は細川政権与党8派と自民党との間の非和解的矛盾にあった。
が、その当時、社会党の長老グループや伊東秀子ら左派の一部の間には「村山さんと河野さん(洋平=自民党総裁)とでハト派政権を作るんだ」といった言説が飛び交った。これはとんでもない妄言で、その当時、そんなことは現今の課題でもなく、従ってまた国民的関心事でもなかった。そのような村山と武村正義=さきがけ党首の迷妄の結果として、村山政権は次の橋本龍太郎政権に道を開き、以後自民党政権が続いていることを思えば、「矛盾のマネジメント」がいかに難しいかが理解できよう。
そういうわけなので、サンクチュアリの皆様には是非、立憲内部で上手に矛盾を成熟・発現させつつ、党内の保守反動派を克服して立憲をまともなリベラル政党に育てて行って頂きたいと思う。
(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2024年6月17日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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