文明と野蛮を見分ける基準はどこに
西郷の『遺訓』の中で最も頻繁に引用されるのは次の一節だろう。
「文明とは道の普(あまね)く行わるるを賛称せる言にして、宮室の荘厳・衣服の美麗・外観の浮華を言うにはあらず、世人の唱うる所、何が文明やら何が野蛮やら些(ちっ)とも分からぬぞ。予嘗て或る人と議論せしことあり。西洋は野蛮じゃと云いしかば、否文明ぞと争う、否な否な野蛮じゃとたたみかけしに、何とてそれほどに申すにやと推せしゆえ、実に文明ならば未開の国に対しなば慈愛を本とし、懇々説諭して開明に導くべきに、左(さ)はなくして未開蒙昧の国に対するほどむごく残忍の事を致し、己を利するは野蛮じゃと申せしかば、其の人、口をつぼめて言無かりきとて笑われける」
外見の華やかさや武力の大きさが文明だと思うのは、あくまでも西洋文明を基準に見ているからで、それを未開扱いされているアジア人の側が憧れて急いで真似をしようとすることくらい滑稽なことはないと、西郷には見えていた。その西郷を大久保は叩き潰したのだったが、その時彼は「もう一つの日本」の可能性を叩き潰してしまった。野蛮が文明に勝利し、安倍晋三までがその末端に侍る長州的野蛮が、明治10年から数えて147年も続いているのである。
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