「進次郎首相」ならば日朝交渉の打開は可能か
たとえば『文藝春秋』(10月号)では、取材に応じた6人の候補者にインタビューしている。加藤勝信元官房長官は自民党拉致問題対策本部長だから、ただひとり拉致問題について聞かれている。加藤はまずこう語った。
「私は拉致問題担当相を務めましたが、この間、被害者の帰国が実現せず、具体的な道筋も描けていないことは、ご家族や支援者の方々に申し訳なく思っています」
問われているのは「具体的な道筋」を描き、実際に交渉することである。担当大臣時代も自民党の責任者であるにも関わらず、正直ではあるが、進むべき方向が定まらないのが現状である。加藤は「一日でも早く首脳会談を実現しなければなりません」「いろんなルートを駆使して北朝鮮側と接触していく」と安倍晋三元総理以来の「決まり文句」を繰り返すだけだ。つまりは何も言っていない。
自民党の総裁選は、9月27日まで続く。第1回の投票では決まらず、上位2者の決勝になると見られる。実際には石破茂、小泉進次郎、高市早苗と3者の闘いだ。最終的に「2、3位連合」によって新総裁が決まる。端的にいって石破か小泉だろう。いずれも日朝交渉に関心がある。
石破議員は私と話をしたときに外務省で直接に交渉をしていた人物に話を聴いて欲しいというと、名前をメモしていた。拉致議連の初代責任者であり、平壌に連絡事務所を置くなど、具体的プランを持っている。その方針に「救う会」は強く批判しているから、もし持論を進めるなら相当の抵抗があるだろう。
小泉議員は、抽象的にだが、日朝交渉に強い関心を示している。ブレーンの中心は、社会学者の古市憲寿氏だ。39歳で43歳の小泉議員と世代も近い。古市氏は小泉議員に読む本を勧めるだけでなく、各界の人脈との面談をセットしてきた。作家、写真家、ジャーナリストたちだ。
日朝交渉や拉致問題に詳しいジャーナリストに会ったときには、金正恩総書記と首脳会談をしたいと語っている。そのための道筋や拉致問題の解決について具体的な方針があるわけではないが、同世代の金総書記(40歳)との会談を実現したいとの意思は強い。2代にわたる北朝鮮トップと親(小泉純一郎)子で交渉した歴史を作りたいのだ。
北朝鮮側はこれからも「5人生存、8人死亡」の基本線は変えないだろう。よく金正恩総書記は拉致に関わっていないから、生存者を出してくるだろうとの楽観論がある。ならばなぜこの22年も生存者を出さなかったのかとの疑問もある。いずれにせよ「拉致問題の解決」とは何かを明らかにすることが新総裁=新総理の重い解題だ。石破あるいは小泉総理は、日朝交渉を打開することができるだろうか。
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