日本の最善手は「現状維持」だが、備えは必要
国連憲章とは国際法ですが、同時にサンフランシスコ和平を構成して、第二次大戦の終結と以降の世界大戦の防止を目的とするものです。戦犯合祀のされた靖国を参拝することは、この全世界体制への反抗になり、日本の安全を揺るがす口実になってしまいます。そうなることは、東條大将、松井大将などの望むことではないと思います。この点は国論の統一が必要な問題です。
非常に単純化するのであれば、アメリカのプレゼンスが消滅した東アジアでは、中ロを同時に敵に回すことは不可能です。中国と韓国と同盟を組むか、あるいは英仏と同盟を組んで抑止バランスを維持するという選択肢は、真剣に考慮されなくてはなりません。
その一方で、仮に石破氏とその後継者が今後もトランプ外交を、のらりくらりと巧妙に引っ張って、4年間を無事に乗り切る、これが何といっても最善であるのは間違いありません。前回の石破=トランプ会談は、ガザ問題でトランプ流のウルトラCが出ていましたが、その影響はまったくないまま済みました。また今回のウクライナ和平をめぐる動きも日米会談にはリンクしませんでした。
結果的には、日程的にも石破=トランプ会談は大成功だったことになります。そう言えば、トランプ氏の当選直後、つまり就任前の昨年11月15日に岩屋外相がウクライナを訪問して、外相会談に臨み、ブチャ虐殺の追悼も行いました。これは一種の「駆け込み外交」ですが、日欧の関係性というのが今後大切になる局面も想定される中では、こうしたことも全くムダではないのだと思います。
あらためて申し上げますが、日本の最善手は現状維持です。トランプと中国の対立はありますが、現在の流れですとテクノロジーの競争と、通商問題が主要な対立点になっています。これが軍事的な対立にエスカレートする兆候は今はありません。習近平も、巨大な不動産バブルの欠損を単に償却するだけではなく、経済成長で埋めようとして、アリババの馬元会長との和解も模索しているようです。
ですが、少なくともアメリカが極端に冷淡になる場合への備えは必要だと思います。その場合は、正規軍による自主防衛、その責任を果たして初めて新しい同盟関係による抑止力維持が見えてくるのだと思われます。同時に、枢軸日本の名誉回復などという商業右翼の煽るファンタジーとの決別も必要になってくると思うのです。
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