取り残された労働者は共和党に救いを求めた
クリントンやゴアが、シリコンバレーの若い起業家やウォール街の大物金融家などにチヤホヤされるのはそれでいいとして、真っ当な政治家として大事なのは、そのような時代の波に上手く乗って金も名誉も得ている一握りの人たちとはかけ離れた境遇にある大多数の人々である。
ここから先はさらにジュディスとテイシェイラの同書から離れて、私の本棚で35年前から待機している別の書物を引っ張り出そう。ロバート・ライシュ『ザ・ワーク・オブ・ネーションズ(諸国民の労働)』(中谷巌訳、ダイヤモンド社、1991年刊)である。ライシュはハーバード大学の経済学の教授で、イェール大学ではビル&ヒラリー・クリントンと同級生という縁もあってクリントン政権第1期に労働長官を務めた。その直前の90年に出版した上掲書の原著を提げて閣僚入りしたが、思ったほどのことを実現できず、失望して1期で辞めたと言われている。このタイトルは、言うまでもなくアダム・スミスの『ザ・ウェルス・オブ・ネーションズ(諸国民の富)』を意識したもので、そこに著者としての意気込みが感じられる。
彼は、米国を筆頭に地球規模で進展するこの経済大変動の下では、従来の職業分類はまったく意味をなさないとして、新しい「3つの職種区分」を提唱する。
第1は「ルーティン生産サービス」で、「かつて米国資本主義の歩兵部隊が演じた繰り返しの単純作業」である。90年現在、このサービスは米国の雇用の4分の1を占めるが、その人数は減少しつつある。金属を扱う産業では白人男性が多く、繊維、半導体、情報処理業ではヒスパニックや黒人女性が多いけれどもその監督者には白人男性が多い。
第2は「対人サービス」で、「小売店員、ウェーターとウェイトレス、ホテル従業員、守衛、銀行の窓口係、病人介護や付添人、老人ホーム介護者」、託児所労働者、家庭の掃除請負い、病人の家庭介護者、タクシーの運転手、秘書、美容師、自動車整備士、住宅の販売人、航空機のスチュワーデス、診療医師、警備員など」。米国人の仕事の30%を占めてなお増加傾向にあり、全体に女性が多い。
第3は「シンボル分析的サービス」で、これは聞き慣れない言葉だが、グローバル化の波に乗ることのできる専門家や知識労働者の類と考えて差しつかえない。「研究科学者、設計技術者、ソフトウェア開発者、建設技術者、生物工学技術者、音響技術者、公共関係専門家、投資銀行家、法律家、不動産開発専門家、専門会計士など。さらに経営・金融・税務・エネルギー・農業・軍事・建築などの分野のコンサルタント、経営情報専門家、組織開発専門家、戦略プランナー、ヘッドハンター、システム・アナリスト、広告プランナー、マーケティング戦略家、アート・ディレクター、建築家、映画監督、写真家、工業デザイナー、出版人、作家と編集者、ジャーナリスト、音楽家、テレビ・映画プロデューサー、大学教授も含まれる」。ほとんどは4年制大学を卒業し、その多くは学位を持つ。圧倒的に白人男性が多いが、白人女性、ヒスパニックや黒人も徐々に増えている。しかし雇用の20%を超えていない。
この中でどんどん豊かになるのは第3のシンボル・アナリストだけで、他は次第に貧しくなっていく。その貧しい多数派の間では、「外国のものを等しく軽蔑する排他性」が強まり、「われわれが勝つか彼らが勝つかという『ゼロ・サム』ナショナリズムが公共精神を腐敗させ、……行き着くところ、人々は自国民だけの福祉を向上させ、地球上の他のあらゆる人々に害を及ぼすような政策を支持するようになり、そこで他の国も自衛上、同じことをするのである。軍備は拡張され、貿易障壁は高くなり、冷戦は熱い戦争となる」。
3分の1世紀以上も前にトランプ政権の登場を見越していたかのようだが、まさにクリントン政権もオバマ政権もこの取り残されて貧しくなっていく白人中心の多数派に十分に手を差し伸べず、むしろBLMやLGBTQや移民や地球環境を心配する人たちなどの急進的な少数派グループの言い分に耳を傾けようとする「社会的リベラリズム」へと流れていく。そこを突いて、トランプが白人多数派を一気に浚ったのである。
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