米中首脳会談は“失敗”、中ロ両首脳会談は“現状維持を容認”。着実に進む「強欲に導かれる世界秩序」の構築

 

存続と生存のため「イラン打倒」は不可欠とするイスラエル

イスラエルとアメリカのキリスト教福音派の人々にとって、その“夢”の実現を邪魔する最大の存在が地域の大国イランであり、イランに影響されるシーア派のグループおよび反イスラエルの組織(ハマス、ヒズボラ、フーシー派など)です。

ゆえに“イランの打倒”は、イスラエルの存続と生存のためには不可欠と考えられ、周辺諸国への攻撃の正当化にも用いられる“生存のための必要な行動”の最大の要素として、イランの影響力を削ぐことが挙げられています。

これは、イスラエルの政権が融和的なものであっても、今のように極右に影響されているような状態であっても変わらない軸と言え、イランの打倒は必要不可欠で、イスラエルの安寧と生存を保証するための最後のmissing pieceとして位置づけられていると、イスラエル政府の中枢にいる友人たちから聞かされました。

この背後には“生存の確保”という究極の欲が存在するわけですが、その欲に基づく自己保全のための行動が他の大きな犠牲の上に成り立つことには目を向けていないように見えます。

“大きな犠牲”には、ユダヤ民族がナチスドイツから受けた民族浄化の動きに擬えたパレスチナ人に対する虐殺や、一方的な理由による財産権の侵害も含まれますが、イランとの敵対を通じて、世界のサプライチェーンに打撃を与え、エネルギー安全保障や物流を滞らせる事態を引き起こしています。

この事態が今、反イスラエルで団結していたアラブ諸国の結束を崩し、イランとの付き合い方についても態度が二分されるという不安定要素を拡大させています。

今年2月28日にアメリカとイスラエル共同で行ったイランへの大規模攻撃を受けて、イランによる大規模な報復攻撃がイスラエル本土はもちろん、アメリカ軍が空軍基地を置く周辺諸国にも及び、エネルギーインフラおよび空港などの交通インフラに大きな損害を与えています。

それは、産油国である各国の生産能力を低下させただけでなく、イランによるホルムズ海峡の封鎖を受けてタンカーの航行が実質的に不可能になることで、精製能力の著しい低下とそれに伴う経済的なスランプという負の影響を与えることになっています。

アメリカのEIAの計算によると、5月に入り、世界の石油需要の1割に当たる【日産600万バレルから900万バレルの供給不足】が生じており、イランによる攻撃とホルムズ海峡の封鎖を受けて湾岸諸国の石油・天然ガスの輸出は50%減となり、サプライチェーンが麻痺する状況が生じているようです。

それに加えて大きなボトルネックになっているのが、石油精製部門の能力喪失で、ロシア・ウクライナ戦争の影響と併せると、世界の9~10%の精製能力が失われているようです。

それにより、原油価格は現在1バレル当たり109ドルから112ドルという高い水準で高止まりし、それが石油価格の高騰による所得圧迫を深刻化させ、燃料不足による物流と輸送能力の麻痺という現象が起きています。

もしこのままホルムズ海峡の封鎖が継続すると、S&P社の分析によると、世界各地でのインフレと生産コストの著しい高騰を受け、今年の秋から年末にかけて世界的な不況が引き起こされるという見通しが示されています。

同時に、近々、ホルムズ海峡の封鎖が解かれたとしても、ホルムズ海峡の封鎖前の状況に戻すまでには少なくとも1年から2年を要するという分析も示されており、あまり明るい見通しが立てられる状況にないのが分かります。

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

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