3.手切れの宣言と組閣の算術-イスラエル
【3-1.投票日の「年40億ドル」】
投票日の11月3日の朝、トランプ大統領は米FOXニュースの番組で、イスラエルへの年間40億ドルの支援を年末で打ち切ると述べました。大統領によれば、ネタニヤフ首相の側から「支援を受けないのが適切だ」と持ちかけてきたとのことです。
ただし、数字は少し丁寧に見ておく必要があります。米国とイスラエルが結んでいる10年間の了解覚書では、支援は年38億ドルで、その内訳は軍事の融資33億ドルとミサイル防衛の5億ドルです。
覚書の期間は2028年まで続くことになっています。しかも、この覚書には法的な拘束力がなく、毎年の予算は議会が承認する仕組みです。大統領の言う「年内での打ち切り」、つまり2027年からは支払わないという方針が、どのような手続きで実行されるのかは、今のところ明らかになっていません。米国の報道の中には、議会の関与を考えれば、年末で一気に止めることは難しいとの指摘も出ています。
イスラエルの首相府は論評を避けましたが、財務と軍の当局者は、驚きと懸念をイスラエルのメディアに匿名で伝えています。野党のラピド元首相は、これを「国家の歴史上、最も深刻な政治と安全保障の失敗の一つ」と批判しました。
【3-2.誰に向けた宣言なのか】
では、この宣言は、誰に向けたものだったのでしょうか。
米国の国内に目を向けると、民主党の候補の多くが、イスラエルへの軍事支援の削減や停止を訴えて選挙を戦っていました。新しい議会では、大統領の宣言と議会の多数の意思が、珍しく同じ方向を向く可能性があります。
一方、イスラエルに目を向けると、宣言のタイミングは、組閣の協議が始まる直前でした。支援の打ち切りが、ネタニヤフ首相への逆風になるのか、アイゼンコット元参謀総長への逆風になるのかは、現時点では分かりません。
前号でお伝えしたとおり、アイゼンコット氏自身は、米国の軍事援助に頼る状態から5年から10年かけて抜け出すという構想を示していました。ネタニヤフ首相が自ら持ちかけたという大統領の説明が事実であれば、首相は「自立」という旗を、政敵より先に掲げたことになります。もっとも、これはあくまで大統領の説明であり、首相の側は何も語っていません。
これに対してアイゼンコット氏は、国防の当局や市民が、米国との戦略的な関係の変化を報道を通じて知らされているのは危ういことだと述べ、ネタニヤフ首相はもはや信頼できず、交代させなければならないと、即座に攻勢に出ました。米国の宣言は、イスラエルの組閣の争いに、早くも武器として持ち込まれたのです。
確かなのは、数十年にわたって米国の中東政策の柱であった約束に、「期限」という文字が書き込まれたことです。
交渉の理論では、長く続いてきた関係の中で一方が条件を変えるとき、その変更が「誰の発案だったのか」という物語が、相手の国内での受け止め方を大きく左右すると言われます。
大統領が「ネタニヤフ首相の側から言い出した」と語ったのは、米国の側から見れば、イスラエルを見捨てたのではないという体面を保つための説明でもあります。同時に、イスラエルの国内では、首相が国の安全を自ら手放したという批判の材料にもなり得ます。
一つの言葉が、二つの国の内政で正反対の意味を持つという、同盟の交渉にはよくある構図です。期限の付いた約束は、受け取る側に、期限の後の備えを急がせます。それは同盟の終わりを意味するとは限りませんが、同盟の形が変わり始めたことを意味します。
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