【3-3.組閣の算術-48と19の距離】
イスラエルでは、10月27日の総選挙の全票の集計結果が10月30日に公表され、11月4日にヘルツォグ大統領に正式に届けられました。議席は、ネタニヤフ首相の陣営が53、アイゼンコット氏の陣営が48、アラブ系の2党が19です。前号でお伝えした開票率97.3%の時点の数字から、陣営の間の議席は動きませんでした。
ヘルツォグ大統領は11月4日から、エルサレムの大統領公邸で各党の代表との協議に入りました。新しい議会の議員の宣誓は11月10日に行われます。
ただし、議員の宣誓は新しい政権の発足を意味するものではありません。11月3日には、野党の指導者たちが、アイゼンコット氏を首相の候補として大統領に推すことで一致したと伝えられました。
そして4日の協議では、算術が一つ動きました。イスラエルのタイムズ・オブ・イスラエル紙によれば、ヤシャル、ベヤハド、民主党、イスラエル我が家に加えて、アラブ系の政党ラアムがアイゼンコット氏を推す立場を示しました。これでアイゼンコット氏への推薦は、合わせて56議席に達する見通しとなりました。
一方、ネタニヤフ首相を推したのは、リクード、シャス、オツマ・イェフディート、宗教シオニズムの各党で、私の計算では合わせて46議席です。与党の陣営にいた超正統派の統一トーラー・ユダヤ教(7議席)は、超正統派の兵役の免除をめぐるネタニヤフ首相との溝を背景に、5日朝の大統領との協議で、誰も推さないと伝えました。
協議は5日も続いており、イスラエルのエルサレム・ポスト紙によれば、アラブ系の合同リストの11議席もアイゼンコット氏を推すとみられ、統一トーラー・ユダヤ教は、アイゼンコット氏との連立の取引も検討しているとされます。両紙とも、協議が終わればアイゼンコット氏が組閣を任される見通しだと伝えています。
私の手元に届いていた、ユダヤ系の野党がアラブ系の政党との協力にも踏み込んだとの情報は、少なくとも「推薦」という形では、半ば裏付けられたことになります。
ただし、推薦と連立は別のものです。アイゼンコット氏の陣営の中には、アラブ系の政党とも超正統派の政党とも手を組むことに反対する声があり、どちらの扉を開けても、陣営の中の誰かが離れかねない状態です。数の上では手が届くのに、互いの「譲れない一線」が重なって手を結べない状態は、形を変えて続いています。
組閣を任された議員には、まず28日、延長して最大42日の時間が与えられます。それで失敗すれば、大統領は別の議員に組閣を任せ、それも失敗すれば、議会の61人の署名で候補を立てる段階を経て、再選挙となります。そして、その間、ネタニヤフ首相は暫定の首相として、安全保障に関わる重要な決定を下し続けることができます。
相手が組閣に失敗すれば権力を保てるという立場は、首相にとって今も最強の交渉の札、つまりBATNAであり続けています。組閣を任された者が、アラブ系の政党の閣外からの支えという「部分的な合意」を設計できるかどうか、そして米国の支援の打ち切りという外からの衝撃が、この算術をどちらに動かすのかが、今後の最大の注目点です――(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦が読み解く国際情勢の裏側戦略インテリジェンス・レポート』2026年11月6日号より一部抜粋。全文をお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録下さい)
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