米国中間選挙で大敗した“裸の王様”トランプが「外交」と「軍事」で早く成果を上げようとする危険な兆候

 

【1-5.変わるもの、変わらないもの】

では、この選挙で、何が変わり、何が変わらないのでしょうか。

変わるものの筆頭は、イランとの戦争の行方です。戦争が与党の敗因だったと大統領自身が認めた以上、大規模な攻撃の再開に踏み切るための政治の体力は、大きく削られました。大統領は、どこかで「もう勝った」と宣言し、戦争の終わりに向かう道を探らざるを得なくなるでしょう。そして、民主党は、その終わりを自らの手柄にしようと競うことになるはずです。

もう一つ変わるのは、共和党の重心です。党の指導部は、2028年の大統領選挙をにらみ、トランプ大統領のもたらした傷から党をどう切り離すかに力を注ぎ始めます。次の候補がバンス副大統領になるのか、ルビオ国務長官になるのか、それとも第三の人物が現れるのかは、まだ見えません。

ただ、選挙の翌日から、その争いの号砲はすでに鳴っています。最も早く動いたのは、バンス副大統領でした。同氏は11月4日、SNSのXに長い投稿を寄せ、敗因として、イランとの戦争、暮らしの費用、米国が後回しにされているという感覚、そしてイスラエルとの関係を挙げました。「負けた本当の理由は、ほとんど誰の目にも明らかだ」と書き、戦争にそれだけの価値があった、今後6年にわたって上院を失うだけの価値があったと言いたいなら、そう主張してみればよい、とまで踏み込んでいます。

米アクシオスによれば、同氏は政権の中で、イランとの合意を急ぐべきだとする側の先頭に立っているとされます。

もっとも、同氏にとっての痛手も小さくありません。地元のオハイオ州では、同氏が肩入れした共和党のラマスワミ氏が知事選で民主党のアクトン氏に敗れ、上院の議席も失いました。米ニューズウィーク誌は、識者の声として、同氏を候補に立てれば「2026年の再現」になりかねないとの見方も紹介しています。

これに対してトランプ大統領は、バンス氏の投稿を「構わない」「おおむねその通りだ」と受け流しつつ、「もう一度やり直せるとしても、同じことをするだろう」と戦争の判断そのものは譲りませんでした。そのうえで、バンス氏は2028年の大統領選挙に「出ないかもしれない」と、含みのある言葉も口にしています。

ほかの有力者も、それぞれの言葉で距離を取り始めました。

フロリダ州のデサンティス知事は、今回の結果を、多くの地域の共和党にとって「絶滅に近い事態」と呼び、議員と政府の高官の株の売買の禁止を求めました。テキサス州のクルーズ上院議員は、関税、中東の戦争、データセンターの建設への反発が重なった歴史的な拒絶だとし、「テキサスは青くなった」と認めたうえで、「我々は耳を傾け、応えなければならない」と語っています。テキサス州のコーニン上院議員も、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙への寄稿で「自ら招いた政治の失策」を挙げました。

一方、ルビオ国務長官は、選挙の後も表立った発言を控えています。選挙戦の表舞台に立たず、イランとの戦争の責めがバンス副大統領やヘグセス国防長官に向かったことで、識者の間には、今回の結果が相対的にルビオ氏を利したとの見方が出ています。ただし、国務長官として戦争の決定の中心にいた以上、その責めから完全に逃れられるわけではないとの指摘もあります。

交渉の言葉で言えば、後継の候補たちは今、トランプ大統領の支持層という「資産」を手放さずに、戦争という「負債」だけを切り離すという、極めて難しい切り分けに挑んでいます。その切り分けの線をどこに引くかが、2028年に向けた共和党の重心を決めることになるでしょう。

一方で、変わらないものもあります。

民主党の内側の、左派と伝統的な中道派の間の溝は、選挙に勝ったからといって埋まるわけではありません。中国に厳しく臨むという姿勢は、もともと両党に共通するもので、政策の向きは大きく変わらないでしょう。変わるのは、その政策を実行する政権の力のほうです。

台湾は、米国の経済の計算と国内の政治の制約の狭間で、これまで以上に揺さぶられることになるかもしれません。そして最も懸念されるのは、残る2年余りが政争に費やされ、何も進まない、何も進められない米国に、世界が振り回され続けるという展開です。

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