各国の利害が複雑に絡み合い、紛争や対立が絶えない国際社会。そんな中、当事者間の「約束」を預かりその履行を見届ける仕組みの弱体化が、世界の秩序を大きく揺るがし始めています。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦が読み解く国際情勢の裏側戦略インテリジェンス・レポート』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、国連総会や緊迫する中東情勢を分析しつつ、国際秩序の軸足が「ルール」から「取引」へと移りつつある現状を解説。さらに米国とイランの交渉や各国の仲介外交を取り上げ、約束を機能させる調停者の重要性を論じています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:調停者の椅子が空いている-約束を約束として機能させる人と仕組みはどこへ行ってしまったのか
調停者の椅子が空いている-約束を約束として機能させる人と仕組みはどこへ行ってしまったのか
「私には軍隊も情報機関もなく、お金もあまりない。持っているのは、声を上げる力と、人を集める力だ」
国連総会のハイレベルウィークを目前にした9月17日、グテーレス事務総長はAP通信のインタビューで、自らの力をこう説明しました。
私はグテーレス事務総長のこの言葉を読んだとき、しばらく手が止まりました。そして、これを「諦め」としてではなく、国連事務総長という仕事の本質を、本人が極めて正確に言い表した言葉として受け止めています。
私の師であるセルジオ・デメロ氏が、2003年にバグダッドの国連事務所への爆破テロで命を落としたとき、国連はまだ「力はなくとも権威はある」存在でした。あれから20年余りが経ち、国連はいま、その権威すら揺らいでいます。
今週、私はニューヨークから紅海、モスクワ、ワシントンへとニュースを追いながら、何度も同じことを考えました。
「世界から調停者が減っている。しかし、それ以上に深刻なのは、約束を『約束として機能させる人』と、そのための仕組みが弱っていることではないか」
約束は、言葉にしただけでは約束になりません。相手が「この人は破らない」と信じたとき、初めてそれは抑止になり、交渉の土台になります。そして、当事者同士では信じ合えないとき、その約束を預かり、履行を見届けるのが、本来の調停者の仕事です。
今週のニューヨークでは、各国首脳が次々と演台に立ちました。米国の大統領はICC(国際刑事裁判所)からの脱退を全加盟国に呼び掛け、日本の首相は国連憲章の「旧敵国条項」の削除を求め、ウクライナの大統領はロシアへの圧力の継続を訴えました。
その間にも、紅海の出入り口であるバベルマンデブ海峡に武装勢力の手が伸び、サウジアラビアは東のホルムズと西の紅海の双方を塞がれる「二重封鎖」に追い込まれています。ロシアでは与党が下院選で過去最多の議席を得て、侵略継続への「信任」を演出しました。そして9月24日には、ワシントンで米中首脳会談が行われました。
場所は違っても、起きていることはよく似ています。
「約束を預かる器が弱り、約束の履行を保証する者がいなくなり、その空白を地域大国や武装勢力、そして二国間の取引が埋め始めている」
その結果、国際秩序の軸足が「ルール」から「取引」へと移りつつあります。そのなかで日本は、自らの言葉を「約束」に変えられるのか。
今週の世界を、この順番でたどってみたいと思います。
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