49度の灼熱インドを歩いて横断した男に襲いかかった人喰いトラ騒動

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さらに驚いたのは、彼の旅を金銭面でバックアップしているのは「スポーツ省」という中央官庁で、そのうえ毎晩の宿泊先は各市町村の警察署、食事も警察でご馳走になることが多いという。

目つきの悪いおっさんたちが彩色して売っているもの、それはヒヨコ!95年ケララ州で。

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日本に当てはめると、ある酔狂な男を文部科学省が金を出して日本全国の市町村を歩いて旅行させ、その男の食事と宿泊場所を各都道府県の公安委員会が提供するという構図になる。やっぱありえん。外務省の上司に賄賂を要求される話も含め、さすがに混沌の国インドだ。

すでに8割以上の市町村を訪ねたキラン・マスケの話がおもしろくないわけがない。とくに彼はセブンシスターズと呼ばれるイン7つの小さな州(ナガランド、マニプール、アッサム、ミゾラム、アルナチャル・プラデシュ、トリプラ、メガラヤ)がおもしろいという。

住人の多くは少数民族で、僕たちが想像するあの濃い顔のインド人ではなく、淡白な東アジア人の風貌をしている。もっともユニークだったのはナガランド州のザカマ族の話だ。現地語でジービーと呼ばれるリーダーが絶大な権限を持ち、ザカマ族の法律と慣習に則してジービーが決定したことには、州警察や州政府も口出しができない。

そして圧巻はジービーが死去した場合、新らしいジービーを選出する方法だ。成人男子が広場に一堂に会し、全員パンツを下ろして互いにチンコの毛を数え合う。そして最多チン毛保持者、つまり股間がもっとも毛深いヤツが次期ジービーに選ばれるんだそうだ。

能力主義とか年功序列とか、そんな生やさしい選考基準ではない。単純にチン毛の本数でニューリーダーが決まるのだ。ある意味もっとも客観的で、あとで不正があったなどと文句のつけようもない。

そういえば近々どこかの国でも新しいリーダーが選出される予定ですが、だれがなっても同じとか候補が小粒とか世間は陰口を叩いている。いっそのこと、ザカマ族の陰毛選手権を拝借したらどうだろうか。あえてオープンにしろとはいわない、というか絶対にオープンにしてほしくないので密室で決めてほしいが、とにかくお互い納得のいく画期的な選抜方法ではないか。

宿の僕の部屋で濛々と紫煙を吐き散らしながらおもろい話を聞かせてくれたキラン・マスケだったが、僕がポルトガルからインドまで14ヶ国を歩いて旅してきた話をすると、

「あー外国に行きたい。外交官になったのも外国に行きたかったからなんだ。でも僕の収入じゃ、これからだって海外旅行はできない。外国を歩いて旅行してきたヒラタがうらやましい」

そういって溜め息をついた。

日本が高度経済成長期を経て円が外国通貨に対してものすごく強くなったおかげで、僕たちは当たり前のように海外へと飛び出していける。でも当時も今も多くのインド人にとって、外国へ行くというのは出稼ぎに行くこととほぼ同義で、僕たちのようにあっちこっちを物見遊山してまわれるほど裕福なインド人はほんのひと握りなのだ。

インドでなくてもどこの国へ行っても、僕は貧乏旅行をしているんだといってみたところで、現地の人々は「貧乏旅行でも1年も2年も外国を旅行できるんだから、金持ちだ」という発想になるのもうなずける。たしかにポルトガルからトルコのイスタンブールまでの1年4ヶ月の旅で300万円の貯金を使い果たしていた。旅程の長さはともかく、旅費が300万円といえばやはり贅沢な旅行だろう。

見にくいですが、ほんとのカラスの行水。カラスも暑くてたまりません。94年ゴア州

見にくいですが、ほんとのカラスの行水。カラスも暑くてたまりません。94年ゴア州

ところで前回触れたインドの猛暑について書いておきたい。中部から南部では、乾季の終わりごろに日中の最高気温が40℃を超える日はザラだ。僕が実際に体験した最高気温は摂氏49・2度。当時使っていたカシオの腕時計「プロトレック」が表示した気温だ。プロトレックの表示温度については手首に巻いた状態だと気温より体温を測ってしまうといわれるが、体温49・2℃はありえんだろう。直射日光を浴びて歩いている路上での気温である。

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