遺伝子組み換えで地球温暖化の「元凶」をほぼゼロに抑えた稲、開発

 

SUSIBA2とは、「オオムギの糖シグナル伝達第2号」という意味の英語の頭字語で、光合成された炭水化物の用途をオオムギに指示する転写因子(特定の遺伝情報が書き込まれたDNA=デオキシリボ核酸の部分に結合し、遺伝子の発現を制御するタンパク質)である。

上記の研究チームは、まずデンプンを多く含むオオムギを分析して転写因子SUSIBA2を発見した。そのうえで、SUSIBA2をイネに導入すれば、炭水化物が籾など地上の器官には多く、根には少なく配分されることによって、デンプンが多く、水田におけるメタンの発生が少ない品種が生まれるという仮説を立てた。

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イネの開花と実り(「新農業展開ゲノムプロジェクト: イネゲノムと未来」サイト)

イネの品種・日本晴にSUSIBA2を導入した品種と、対照群の日本晴を、2012年夏と13年夏に福州で栽培したところ、SUSIBA2を導入した水稲からのメタン発生量は、開花前でも日本晴の10パーセント、開花28日後は日本晴の0.3パーセントに減った。泥の中の各種のメタン菌も減ったが、栄養源である根の乾燥重量が、1株あたり平均110グラムから70グラムに減ったためと考えられる。籾の収量のほうは、1株あたり平均16グラムから24グラムに増え、籾に含まれるデンプンの割合も75パーセントから85パーセントに増え、仮説が裏付けられた。

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世界の地表大気中のメタン濃度。経度0度が中心。農業地帯やガス田に多い。なお、成層圏のメタン濃度は赤道付近がもっとも高く、高緯度地域は低い。[2]

オオムギもイネ科の植物であり、オオムギにおいてSUSIBA2が制御している代謝は、イネのどの品種にもある。それゆえ、SUSIBA2を導入したイネを作物として栽培することの是非は、この品種の長雨などの気象や病虫害への耐性や、イネの根から染み出す養分とメタン菌が減ることの生態系への影響にかかっている。今後はこうした点が、中国や米国など遺伝子組換え作物栽培国で検証されることになる。

(静岡県立大学グローバル地域センター特任助教・西恭之)

 

【参考文献】

[1] J. Su et al., “Expression of barley SUSIBA2 transcription factor yields high-starch low-methane rice,” Nature 523: 602‐6. 2015年7月30日. [2] Krishna Ramanujan, “Methane’s impacts on climate change may be twice previous estimates,” 米航空宇宙局(NASA)サイト, 2005年7月18日. http://www.nasa.gov/centers/goddard/news/topstory/2005/methane_prt.htm

image by: Shutterstock.com

 

NEWSを疑え!』第448号より一部抜粋

著者/小川和久
地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。
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