相手を感情的にしないためには「人格」に言及しないことが大切です。たいがい、交渉のテーマとなっていることは、人生においてたいして大きいものではないものです。自分の価値観、生き方、家族等々、もっと他に大事にするものがあります。そこには交渉の場では一切触れず、テーマのみに対象を絞ります。
そして、優しい言葉で説得する前提は、こちらの主張に聞き耳を持ってもらうこと。どうすれば、相手は、私たちの話を聞いてくれるでしょうか? そのためには、まず相手が言いたいことをすべて言い切った状態にすることが重要です。これはいわば、優しく、言葉で説得するために必要な土壌づくりです。
おだやな表情で、全部話を聞く姿勢を見せ、相手の言葉に相槌を打ちながら耳を傾けます。途中で自分の意見と違う部分も当然出てくるでしょうが、すぐには反論しません。相手が言いたいことを全て言い終わったら、そこからゆっくりと「それでは、私の話も聞いていただけるでしょうか」と話しだします。そこでも、主張をまくしたてるのではなく、相手が理解していることを確認しながら進めていきます。
さらに口調を優しくするためには、質問形式で話すという方法があります。「この点はどうお考えでしょうか」といった質問をし、相手の答えを待ち、相手の意見を尊重する姿勢を見せれば、一方的な主張ではないということを示すことができます。
ただし、相手の言葉に聞く耳を持つことは重要ですが、対立する条件や事実関係には同意しないことも大切です。あくまでも交渉は、「自分が最大限の利益を得る」ことが目的であって、相手の利益を満たしてあげることではありません。そして、相手の有利になることをこちらから言わない、といった交渉の基本はしっかり押さえなくてはなりません。
自分の感情を抑え、相手の感情を無用に高ぶらせない、さらに、優しい口調の中に自分の意見を散りばめていくといった技術が必要であると思います。
「優しい言葉で相手を征服できないような人は、きついことばでも征服はできない」チェーホフ
今回は、ここまでです。
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『弁護士谷原誠の【仕事の流儀】』
人生で成功するには、論理的思考を身につけること、他人を説得できるようになることが必要です。テレビ朝日「報道ステーション」などでもお馴染みの現役弁護士・谷原誠が、論理的な思考、説得法、仕事術などをお届け致します。