大隅氏ノーベル賞の一方で…日本の研究者が置かれた苦しい現状

 

20年ちょっと前、大隅さんがオートファジーの一連の大きな成果を上げる前は、何年も論文を書いていなかった期間があったそうです。短期間での研究成果を要求される現代では、このような研究のやり方は難しいでしょう。ポスドクなんかだと、数年間論文を書いていなければ、次のステップに進むのはとても難しくなります。

ただでさえそんな状況にあるアカデミアですが、追い打ちをかけるように大学の運営費交付金はどんどん減らされています。この12年間ちょっとで1470億円減少

今すでに雇用しているテニュア研究者を解雇したり給与を減らすことはできないので、削減された予算のしわ寄せは、若手研究者の採用見送りという形で現れます。新潟大学では今年度から2年間、新しい教員を採用しない方針です。

僕も在籍していた北海道大学では、退職者の不補充と任期付教員の雇い止めにより、5年後までに人件費の14.4パーセントの人件費(教授だと205人分、助教だと342人分に相当)が削減される計画です。旧帝國大学ですらこの状況

大隅さんはノーベル賞の賞金を若手研究者のために使うことを表明しており、これはとても素晴らしいことです。ただ、当たり前ですが、これだけでは全体の問題解決にはなりません。

オートファジーでは新たな栄養が取れないときに古いタンパク質を分解して再利用しますが、これからの日本の大学などでは新たな人材を取れず、古い人材の再利用もできなくなります。オートファジーが機能しないような状態になるので、栄養をとることなくやせ細っていきます。これは、国家の基礎研究が破壊されていくことに他なりません。

基礎研究や教育は大事なので予算配分をすべきですが、国としても、好きでこのようなひどいことをしているわけではありません。もちろん、予算配分の仕方など、見直すべき点はあるでしょう。しかしながら、根本的にはこの国全体の財政縮小が原因にあるため、ない袖は振れない、というのが実態です。

国に文句を言ってもどうにもならない。研究者が受け身になっていたら、泥舟と一緒にもろとも沈んでしまうだけです。クラウドファンディングの活用の他に、研究者自身が民間企業や富裕層に働きかけ、快くパトロンになってもらう仕組み作りなども必要になるでしょう。国家という枠を超えた資金調達も考えなければなりません。

比較的研究環境の良い国に移ることも手段の一つでしょう。シンガポール、アラブ首長国連邦、中国などに移動する研究者が今後は増えてくるかもしれません。科学研究を実施するのに場所は関係ないのです。研究成果が人類全体に貢献すればそれでよいのですから。

【参考資料】

細胞が自分を食べる オートファジーの謎:水島昇著

大隅氏、基礎研究の危機訴え ノーベル賞金、若手支援に活用

隣のおじさん-大隅良典君(ノーベル生理学・医学賞の受賞を祝して)

北大で教授205名分の人件費削減を提案

国立33大学で定年退職者の補充を凍結

image by:  Shutterstock

 

著者/堀川大樹

慶応義塾大学特任講師。1978年東京都生まれ。2001年からクマムシの研究を続けている。北海道大学で博士号を取得後、NASA宇宙生物学研究所やパリ第五大学でクマムシ研究を実施。有料メールマガジン「むしマガ」も運営。

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