本来なら、中国政府からすれば「一つの中国の原則」は自らの「核心利益」に関わる基本原則であるから、それを侵すような行為は断固として許せないところだ。しかしこの原則を公然と踏みにじったトランプ次期大統領に対し、今のところ、習近平政権は上述のような姑息な手段を使った以外には、何の有効な反撃措置をも打ち出せていない。
この場合、しばらく自重してトランプ政権が発足してからの動向を見極めるのも、あるいは今のうちにトランプサイドに決定的な一撃を加えて中国の本気さを思い知らせるのも、中国にとっての合理的選択肢となるのだが、結局習近平政権は、この2つの合理的行動のいずれかも取ることができなかった。彼らは結局、米軍の無人機を盗み取るような姑息な行動で自らの反応を示し、中途半端な形でその幕引きを図った。
しかしそれは、「確信犯」のトランプ次期大統領に何の警告的な効果もないこともさることながら、台湾問題に関するトランプ氏の言動に批判的なオバマ政権にまで無意味なけんかを売ることとなった。そしてその行動は結果的に、政権の交代とは関係のない米海軍を敵に回してしまい、中国に対する敵愾(てきがい)心をより一層刺激することになったはずである。
このようにして、「一つの中国の原則」を覆そうとした「トランプショック」に対し、習近平政権はどうすればよいのか分からないような戦略的混乱と無為無策に陥っている。逆に言えば、台湾問題を持ち出して中国に揺さぶりをかけるトランプ氏の戦略は、緒戦段階から大きな成果を収めているのである。
「トランプ氏は与(くみ)しやすい」という当初の中国国内の楽観論はこれで完全に裏切られた。そして12月25日、中国の空母艦隊はとうとう第1列島線を越えて西太平洋へ入った。
米中対決は今年から本格化していくのではないか。
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『石平(せきへい)のチャイナウォッチ』
誰よりも中国を知る男が、日本人のために伝える中国人考。来日20年。満を持して日本に帰化した石平(せきへい)が、日本人が、知っているようで本当は知らない中国の真相に迫る。
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