トランプ「理不尽」外交、米国第一なら日本は何番目になるのか?

 

困ってしまった安倍総理

ナヴァロ路線が強まるのであれば、安倍政権が一貫して追求してきた「中国包囲網外交とは基本的に合致する。安倍総理としては、トランプ外交が始動する1月27日に、「古い同盟」としてはいの一番に日米首脳会談を実現することに執着して昨年末から懸命の働きかけをし、またその前にフィリピン、豪州、インドネシア、ベトナム歴訪をセットして中国包囲網強化のため働いていることを見せつけて歓心を買おうとした。その上でワシントンに乗り込んで、まずTPPが経済面からの中国包囲網であるというその重要性を強調してトランプに再考を迫ると共に、尖閣諸島が日米安保条約第5条に基づく米国の防衛義務の範囲であることの再確認を求めようという算段を立てていた。

しかし、トランプが「古い同盟」の中で真っ先に会談相手に選んだのは英国のメイ首相であり、次に31日に会うのはメキシコのペニャニエト大統領、そして3番目が恐らくカナダのトルドー首相という順番になるだろう。その次はイスラエルか、はたまたロシアか。このあたりで2月中にも日本が滑り込めれば上出来ということになるが、トランプの側には日本やドイツ、フランスなどと急いで会わなければならない理由は何もない。

また会ったところで、TPPに関しては望み薄で、ナヴァロは「TPPは中国の台頭を抑えるのに何の役にも立たない」という見解の持ち主であって、安倍流の説得は通用しない。それよりも、この話題を持ち出すとかえって「日米2国間FTA」というTPPより一層過酷な交渉に引き込まれる危険が高まる。

その一方、「尖閣」に関しては、トランプはほとんど関心がないのではないか。関心を持ったとしても、トレーニンが言うように、トランプは「米国が自動的に同盟国を守ることはしないと言っている、守るからには米国が何かを貰わなくてはいけない」という立場で、自分を高く売りつけようと取引に出るだろう。

日米相携えて中国を抑えるという安倍路線の決まり文句は「自由民主主義法の支配などの基本的価値観の共有」。その価値観の大元である米国を盟主として仰ぎ、日本がその副官として脇に侍って、ベトナムやフィリピンやインドネシアなどが、価値観を異にする中国に接近しないよう経済援助や武器供与を惜しまず世話を焼いて、包囲網を編み上げるというのが安倍の自己イメージである。しかし、お気づきかどうか、今回のトランプの演説では「自由、民主主義、法の支配への言及は皆無に近かった。米国の価値観の揺らぎは避けられまい」(1月22日付読売社説)。安倍総理の価値観外交はすでに半壊状態だということである。

他方、トランプ演説の3日前、ダボス会議初日の基調演説に登場した習近平は、グローバル化には様々な問題が伴うけれども、保護主義によって何らかの解決が得られると思うのは間違いで、現代の指導者たちが力を合わせて問題に対処する責任を果たしていくべきだと、まるで米国大統領のようなことを言い、それについてキッシンジャーがビデオ・メッセージで「中国が新しい国際秩序づくりに参加しようという宣言だ」と称揚した。

この「新しい同盟」路線が動き出すのであれば、安倍外交は完全に時代錯誤と化して没落していく。トランプは「古い同盟を強化し、新しい同盟も作る」と簡略に述べたが、そのどちらが先行するのか、またそのそれぞれの中での優先順位がどうなるのかは全く予断を許さない。日米関係の行方はスリルに満ちている。

image by: a katz / Shutterstock, Inc.

 

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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