【書評】なぜ焼肉「叙々苑」には芸能人の色紙が飾っていないのか?

 

マスクメロンなど季節の果物を出すようになり、焼肉店で無料のデザートが出ると評判になった。当時は普通の焼肉店は肉を皿に載せるだけだったが、叙々苑では面倒ながらも肉を皿に1枚ずつ並べて出し、今ではどこの店もやるほど常識を変えた。

そして、当時は焼肉店では煙が充満するのが当たり前だったが、銀座の女性客の多くから、髪を洗う前日しか焼肉店に行けないという声を聞き、当時珍しかった無煙ロースターを導入した。今ではどこの焼肉店に行ってもみかける、レモンをかけたタン塩のメニューも、帰る際に口臭予防のためにガムを渡すことも、女性客の意見を聞いて叙々苑が始めたことである。そのように、女性を気遣って一流店を目指していると、女性客が一気に増え、焼肉人口全体が急増した。

2006年にはホテルニューオータニ大阪に出店し、焼肉業界初のホテル出店を成し遂げたほど、叙々苑は日本の焼肉業界の価値を変えた。六本木で従業員10名足らずで1号店をスタートした叙々苑は、いまや全国各地に出店するようになり、焼肉のタレやドレッシングなどの関連商品も好調で、従業員数2,550人の大企業へと成長した。

叙々苑は場所柄、そして朝方まで営業していたことで昔から芸能人のお客さんが多く、特別にお願いしているわけではないが、芸能人が好意的にテレビで取り上げてくれた。

最初は社長やマネージャーに連れてこられて、一人前になると、自分で来てくれるようになり、スタッフの打ち上げで利用してくれたりする。そうやって、駆け出しの頃から利用していた大女優や人気歌手たちが、スターになってからも利用して、新たなお客様を呼び寄せてくれる

どんなに有名なお客様であっても、叙々苑では、特別なお礼もしなければ値引きもしないという。それは、長くお付き合いしたいからである。

特別なことをしたら、相手も気を遣ってしまう。ゆっくりとくつろいで美味しい食事を楽しんでもらいたい。だから、叙々苑には芸能人が多く来るのに、誰の色紙もない。そんなことでお客様をわずらわせないために、「絶対にサインをいただくなよ」と社員たちにも厳しく禁じている、と新井氏は述べている。

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