中国急成長の裏で「9重苦」に押しつぶされる中国農民の現状

 

寒さでは北京も負けていません。朝晩はマイナスになります。そんな極寒の中、大勢の出稼ぎ労働者が住む場所を奪われ、路頭に迷うことになったのです。冒頭の記事に戻ります。北京郊外の出稼ぎ労働者の町であった新建村で起こった火災では、19人が死亡しましたそのうち8人は子供だったそうです。違法建築だったため、火災対策などあるわけもなく、火災発生時に室内にいた人々は逃げ場もなく一酸化炭素中毒で亡くなりました。

記事によれば、現場となった聚福縁公寓は、「工場アパートとして建てられたビルだったが、5~6年前に地上2階と3階の一部を改造して10数㎡程の部屋を305室作って貸室とした」ものだったそうです。工場アパートとは、工場として貸し出すことを目的に建てられた建物であるため、現場の建物も地下一階は冷凍倉庫となっていたそうです。

こうした建物に住む時点で命がけですが、それでも雨風をしのぐ部屋に住めるだけ有り難いと、出稼ぎ労働者たちはときには一人で、ときには一部屋を数人でシェアして住んでいました。そんな懸命に生きている彼らに対し、北京政府は容赦なく立ち退きを迫るのです。郊外地域の違法建築を徹底排除して、再開発を進め、クリーンなイメージにしたいとのことから、火災が起こる前から新建村の住民には立ち退き勧告をしていたそうです。

しかし、彼らには立ち退いた後に行く場所はありません。故郷に戻っても現金収入を得ることはできないため、なんとか都会で働かなければなりません。そうして立ち退きが遅れていた最中の火災でした。現地報道によれば、火災の火元は不明とのことで、容疑者は何人か身柄を確保しているそうなのですが、政府の立ち退き要求に従わなかった彼らを、政府関係者が卑劣な手段で強制排除しようとした可能性もあると憶測してしまうのは私の邪推でしょうか。

記事によれば、火災があったのが2017年11月18日夜で、11月21日には火災があった「大興区の北部に位置する“旧宮鎮”の地元政府が次のような緊急通知を布告したことがネットに掲載されて話題になった。」そうです。その通知を以下に引用しましょう。

《緊急通知》

 

“大興区政府”および“旧宮鎮政府”の通知に応じ、北京市政府の関係文章の要求に基づき、本地区にある全ての“公寓(アパート)”および“出租房屋(貸室)”は5日間を期限として大至急清算し、返却することを要求する。11月26日には水、電気、ガスを強制的に停止する。全ての居住者はこの期限前に完全に退去することを要求する。この期限を過ぎても退去しない者は本公司および政府が強制的な措置を採るが、その結果は自己責任である。

 

2017年11月21日

こうして強制退去させられた出稼ぎ労働者は10万人とも言われています。地方から来たこれだけの人々を追い出してしまった北京では、北京市民の生活の一部が麻痺したこともあったそうです。例えば宅配便は人手不足を理由に一時ストップしてしまったとか。ここには、田舎の戸籍と都会の戸籍による圧倒的な差が問題の根底として横たわっています。

print
いま読まれてます

  • 中国急成長の裏で「9重苦」に押しつぶされる中国農民の現状
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け