年が明けて2018年2月11日、旧暦の正月の最終日に、北京でも繁華街として賑わう西単で一人の男が無差別殺人事件を起こしました。被害者は13人、そのうち一人は亡くなったということです。
● 北京西單大悅城商場持械行兇事件:致1死12傷(視頻)(《新聞時時報》2018年2月11日)
犯人の人物像について詳細を記した記事があったので、以下に引用します。
男は河南省西華県出身の35歳で、周囲に社会に対する不満を漏らし、報復したいと話していたという。また、事件を伝えた中国メディアによると、男は中学校を中退して実家を出、河南省、河北省、江蘇省と移り住みながら主に工場を渡りあるいていたのだが、仕事も生活もうまくいかず、実家にも寄りつかず、人と交流もせず、ネットカフェを転々とする生活を送っていて、世の中を悲観していたのだという。
犯人は河南省出身の出稼ぎ労働者で、工場を転々としながら働いていたとのこと。冒頭の火災現場に住んでいた人々とほぼおなじ境遇と言えます。極寒の中、少ない現金収入のなかやりくりしてやっと手にいれた住処を追い出された10万人の一人だったのかもしれません。
この現実は、個人の努力で何とか出来るほど簡単ではないでしょう。戸籍の問題は中国人の中に根強く存在しています。そして、農村の戸籍を持つ者は「下級人口」として排除の対象として虐げられ続け、都会の戸籍を持つ者は富み続ける。虐げられ続ける側のやるせなさは、限界を超えると凶行という形になって発露するのかもしれません。
習近平が任期撤廃して、すべての富、名声、権力を手に入れていく一方で、「下級人口」はどんどん追い詰められていくのです。この負のエネルギーが限界まで大きくなったとき、中国で何かが起こるかもしれません。
習近平は、「打老虎(虎退治)」と言われる汚職追放運動の後、「大気汚染追放」キャンペーンを印象づけるために、練炭の使用を禁止した上に、民工(農村からの出稼ぎ労働者)を首都から追い出すクリーン作戦をはじめたのです。
しかし、どれだけ美辞麗句を重ねても、「虎退治」も「クリーン作戦」も、習近平の子分たちや富裕層には全く関係がなく、被害者は専ら民工たちです。中国では、古代から農民は都市に流れてくるのが掟です。今年の北京の冬は、例年以上に厳しい寒さに見舞われています。民工たちはどこまで追い詰められていくのか。これは習近平政権の最大の不安定要素です。