【書評】日本人は知らない、中国が経済成長で失った「正しさ」

 

共産党は都市の中産階級の意向に沿った政策だけを採り続けている。だからコメの価格を上げない。農民工の最低賃金も上昇を抑えている。上げると都市部のサービス価格が上昇するからだ。また、工場労働者の給料が上がり、国際競争力が落ちれば、工場で働く労働者だけでなく、北京や上海の本社で働くホワイトカラーが困る。そういうわけで、農民工の最低賃金を上げないのだ。

農民の生活状況の改善は後回し。都市住民のことを真っ先に考える。これが共産党の基本方針である。今後、時間が経過しても、中国の農民が急速に豊かになることは絶対にない。農民戸籍を有する9億人は、社会の底辺で生きていくことになる。戸籍アパルトヘイトにより、国民が農村と都市に二分されていることが、中国が経済成長を遂げることができた要因になっている。

当初は農村から出てきた人の多くが、工場で働いていたため「農民工」と呼ばれた。しかし現在、農村から出てきた人々は、工場だけでなく、都市のいろいろな分野で働いている。これが広義の「農民工」である。都市戸籍を持つ4億人が、都市に出てきた農民戸籍の3億人を、現代の奴隷として低賃金でこきつかい豊かになった。農民戸籍所有者は、これからもずっと貧しくあり続ける

「中国は民主主義を否定し、農民を踏み台にして、戸籍アパルトヘイトのもと、勢いよく成長することはできました。が、それが国内に大きな歪みを作り出すことになり、その是正に途方もない時間が必要になりました。民主主義がない国は、一度間違いを犯すと、その間違いを修正できず、ただ傷を深めてしまうものなのです」と著者。今までにない視点からのレポートであった。

「日本には中国経済の将来について、とても楽観的な人々がいますが、筆者は9億人もの農民戸籍所有者がいることを十分に理解しているため、その未来については悲観的です」。楽観論者たちはそもそも、中国の戸籍制度や9億の農民のことを知らない。わたしもそうだったが、この本を読んで意識が変わった。

「現在の中国の状況と中国政府が行っている対外膨張政策は、戦前の日本が行った政策のカーボンコピーのようです。そうであるなら、その帰結もまったく同じものになるでしょう。そう、中国の対外膨張政策はアメリカとの対立を招き、そして敗れ去るのです」。覇権国は第二位にのし上がった国を必ず叩く。

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