北方領土返還でプーチンの「餌」にまんまと引っかかった安倍首相

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北方領土問題に関して、日本政府が従来主張してきた「4島一括返還」から突如「2島+α」に方向転換した安倍首相。この「大幅な譲歩」には、どんな思惑、力が働いたのでしょうか。ジャーナリストの高野孟さんは自身のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』でその理由を探るとともに、外交手腕に長けたプーチン大統領に足元を見られ、2島どころか「1島+α」に終わる可能性もあると記しています。

※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2018年11月19日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

安倍首相流「やっているフリ外交」の危うさ──北方領土「2島+α」論への唐突な転換

プーチン露大統領が投げた餌に安倍晋三首相はまんまと引っかかった。

9月12日にウラジオストク「東方経済フォーラム」の壇上でプーチンが「年末までに前提条件なしで平和条約を結ぼう」と言い出し、その場では困惑してうっすら苦笑いするだけだった安倍首相ではあるけれども(No.963参照)、プーチンが「年末までに」と期限を区切ってきたことに「問題を進展させる意欲があると感じ取った」(11月17日付読売解説)ことから、14日シンガポールでの日露首脳会談で、「平和条約締結後に歯舞色丹を引き渡す」とした1956年の日ソ共同宣言を「基礎」として交渉を再開するよう逆提案した。

この問題が、まさに2島か4島か、はたまた3島かを巡ってこじれにこじれてきた60年以上の歴史を思えば、「年末までに何らかの合意が達成されるような生やさしいことでないことは誰にでも分かる。にもかかわらず、安倍首相がその言葉に飛びついて、1月にも安倍訪露、6月のG20大阪サミットの際のプーチン来日で何らかの決着とまで意気込んでいるのは、7月参院選前に何とか外交で成果をあげたいと焦っている証拠である。

北朝鮮の核問題ではトランプ米大統領に梯子を外されて恥をかき、急いで拉致問題に力点をずらして日朝首脳会談への意欲を口にはしたものの実現の目途は全く立っていない。中国との関係改善は少し前進したが、米中摩擦が強まる中でどうポジションをとるか腰が定まらない状態で、それを中国側からも見透かされてしまっている。内政面の最大課題である改憲が、超側近の下村博文氏を自民党の憲法改正推進本部長に据えるというミスキャストが仇となり、衆参の憲法審査会を開くことさえ難しくなっている中で、余計に得意なはずの外交で目覚ましい花火を打ち上げないと政権運営が立ち行かないという危機感があるのだろう。

しかし、外交に拙速は禁物で、ましてプーチンのようなしたたかな戦略家を相手に軽率に振る舞えば、たちまち手玉にとられてしまう危険がある。

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