北方領土返還でプーチンの「餌」にまんまと引っかかった安倍首相

 

「2島+α」の本当の意味は?

もともと北方領土問題とは、歯舞・色丹の2島の返還問題である。鳩山一郎政権は2島返還で領土問題に決着をつけようとしたが、日ソが親密化することを怖れた米国は、ソ連が決して呑まないであろう国後・択捉を含めた4島返還を主張するよう日本に迫った。そのため鳩山は、共同宣言にソ連側の言い分どおり歯舞・色丹の引き渡しを明記すると同時に、「領土問題を含む平和条約交渉を継続する」という表現で国後・択捉についても今後交渉する含みを残そうとしたが、フルシチョフ第一書記の強い反対で「領土問題を含むの一句は削除された。

この、2島は当然だが残りの2島についても引き続き交渉するというのが2島先行である。それがいつの間にか「4島一括でなければ話にならないという強硬な公式姿勢に変わり、それに対応してソ連側も領土問題は解決済みという態度に転じて二進も三進も行かなくなった。それを「2島先行」論あるいは両者を並行して協議する「2+2」論に引き戻そうとしたのが、2001年の森喜朗・プーチンのイルクーツク声明」で、それを陰ながら推進したのが鈴木宗男代議士、東郷和彦外務省欧亜局長(→駐オランダ大使)、佐藤優氏らのチームで、彼らはパージされ、「4島一括」の国是を曲げた極悪非道の者であるかにバッシングされた。

とすると、安倍首相の2島+α」論も同じように、あるいはもっと酷く国賊扱いされてもおかしくない。というのも、4島一括論者から見れば「2島+α」論は実は「2島先行」論や「2+2」論より、もっと悪い。「2島+α」論について佐藤優氏の解説はこうだ(AERA11月26日号)。

日ソ共同宣言を素直に読めば……歯舞・色丹は日本の主権下、国後・択捉はロシアの主権下にあることを確認し、日露間に国境線を画定する。……これで日露間の戦後処理は完全に終わる。

歯舞・色丹は日本領になるのだから、日本人が往来、居住し、経済活動や文化活動を行うことができるようになる。

国後・択捉はロシアの主権下にあることを日本が認めた上で、経済活動を含む活動について日本に特別の地位を認める制度をつくることができる。この制度について条約を結んでもよい。これで「2島+α」が実現する……。

つまり、国後・択捉返還の断念論なのである。「+α」が付いているので、歯舞・色丹でお終いとはならない「2島先行」論と同じく、まだその先に残り2島の返還があるかの印象を与えているが、その先にあるのは日本人の活動を許す特別の制度だけである。これについては東郷氏も、同じことを述べている(11月16日朝日新聞「耕論」)。

共同宣言は……国後・択捉の2島については何も書いていない。しかし、これまでの交渉経緯を考えると、国後・択捉についても何らかの「アルファ」があるはずだ。具体的には共同経済特区のようなものをつくるといったことではないか。

法的には「2島プラスアルファ」で決着させ、平和条約を結ぶ。長期的には国後・択捉をあきらめないけれど、法的に領土にするのでなく、国後や択捉で日本人がロシア人と仕事し、ともに汗をかく……。

私は昔から「2島返還」論なので、大筋これに賛成だが、安倍首相が本当にこういう考えに転換したのだとしたら、自分の支持基盤である日本会議系の右翼に刺されることにならないか。日本会議は『日本固有の領土・北方領土をとりもどす』と題したパンフを発行し、その中で「4島一括返還論を掲げて運動してきた経緯がある。

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