そればかりではない。金正恩は北朝鮮を出発する時に、専用列車に乗るときからの映像を公開し、自分はまさに祖国の繁栄のためにこれから大長征(北朝鮮の指導者がよく使う“苦難の行軍”とは言わなかった)の途に就くんだということを人民にアピールし、労働新聞もこの模様をカラーページで伝えた。
26日付の労働新聞は社説で、金正恩が祖国と人民のために「不眠不休の労苦を捧げている」と強調し、「最高指導者同志と息遣いをともにする者は、これまでより2、3倍の働きをすべきだ」と人民に訴えた。
北朝鮮側はトランプ大統領が「完全なる非核化には時間がかかる、急がない」という言質をどのように解釈したのか、会談では「寧辺の核施設の査察・廃棄」程度のハードルでアメリカ側との交渉に当たったようだ。
アメリカ側は寧辺以外の核・ミサイル施設の所在・規模などを明らかにすることを要求したが、北朝鮮側がこれを出し渋ったのだろう。トランプ大統領は2月28日の会見で「一般に知られていない施設で、我々が知っているものもある」と述べ、公にされていない施設の把握を示唆していた。
3月1日、「敗戦の将語らず」ではないが、北朝鮮の李容浩外相がハノイのホテルで記者会見し、米朝首脳会談が決裂したのは、北朝鮮が寧辺核施設の完全廃棄と交換に求めた制裁の解除は「人民生活に支障をきたす項目だけ」と主張し、北朝鮮が制裁の全面的な解除を要求したとするトランプ大統領の発表に反論し、「会談の失敗はアメリカ側の責任」とした。
敗者の弁として、金正恩に代わって李外相は言わざるを得なかったのであろうが、今回のハノイの会談で「誰が得をしたのか、勝者なのか」という風評に、「ベトナム」だと答える向きが多い。
問題は北朝鮮に帰ってくる金正恩を迎える人民の姿であり、労働新聞や『朝鮮中央テレビ』の扱い方だ。国際的なスポーツ大会などで活躍した選手は、それこそ凱旋将軍のように扱われるが、金正恩はどのように扱われるのか注目したい。韓国から北朝鮮に向けて江華島辺りからビラが飛んで行くかも知れない。(宮塚コリア研究所代表 宮塚利雄)
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