【書評】「上級国民」と「下級国民」を作り上げた元凶の世代は?

 

1970年代から半世紀の間、「団塊の世代」は一貫して日本社会の中核を占めていたので、どんな政党が政権を握ろうとも、彼らの利益を侵すような「改革」は不可能だった。彼らが現役を引退したことで、「働き方改革がはじめて可能になった。ようやく日本でも、前近代的な雇用制度を見直す機運が生まれた。

2019年6月、「高齢社会における資産形成・管理」と題した金融庁の報告書が炎上し、撤回される騒ぎがあった。「高齢者夫婦が退職後30年暮らしていくには、年金以外に約2,000万円が必要だ」と書いてあるというのだ。著者が報告書を読んでみると「現役世代が同じような『平均的家計』を望むなら、2,000万円を目処に資産形成したほうがいい」という、至極まっとうな提言であった。

どこが「問題」なんだ。炎上の理由は、報告書が示す平均が高すぎたことだった。そんな豊かな高齢者世帯は全体の3割くらいだ。「平均以下」とされた7割の高齢者の不安を煽り、選挙を控えた与党に大きな衝撃を与えたのだ。高齢世帯が金融資産を殆ど保有していない3割と、多額の金融資産を持つ3割に二極化しているのが実態で、年金受給権に触れるのは、政治的に最大のタブーなのだ。

平成が「団塊の世代の雇用(正社員の既得権)を守る」ための30年だったとするならば、令和は「団塊の世代の年金を守る」数十年になる以外にはない。団塊が90代を迎える2040年には、団塊ジュニアが前期高齢者(65歳以上)になり、高齢化比率は35%に達し、現役世代が1.5人で高齢世代1人を支えることになる。

これが日本の高齢化のピークで、医療給付費、介護給付費、年金給付すべてを合わせれば168兆円というとてつもない金額になる。河合雅司『未来の年表』でも、団塊の世代の動向を中心に日本の将来が予測されている。2026年には高齢者の5人に1人が認知症患者、その人数は施設の収容能力を超える730万人。2030年には団塊の世代の高齢化で、東京郊外にもゴーストタウンが広がる。

2033年には空き家が2,167万台に達し、3戸に1戸で住人がいなくなる。2040年には全国の自治体の半数近くが「消滅」の危機……。人口動態は未来を確実に読める。大規模な移民や戦争などがない限り、先進国では死亡率や出生率は安定しているので、10年後、20年後どころか半世紀先までほぼ確実にその動向が分かる。これら単純な予測は、まともな政治家や官僚なら知っているはずだ。

著者は経済官庁の若手官僚に「働き方改革がようやく始まったが社会保障改革はどうなるのか」と訊いたら「誰も改革なんかに興味はない」と応じた。じゃどうするんだと迫ると「ひたすら対症療法を繰り返す」と言う。年金が破綻しそうになったら保険料を引き上げる。医療・介護保険が膨張したら給付を減らす。それでもダメなら消費税を少しだけ上げる。そうやって20年間耐え続ける。

2040年を過ぎれば高齢化率は徐々に下がっていく。だったらなぜ、わざわざ危険な「改革」などというゲームをしなければならないのか、これが「霞ヶ関論理」なんだって。以下太字で

この持久戦に耐え抜けば「下級国民」があふれるより貧乏くさい社会が待っており、失敗すれば日本人の多くが難民化する「国家破産」の世界がやって来る。

平気だ、わたし冥途にいるもん。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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