新型肺炎の流行で世界が気づき始めた「チャイナリスク」の巨大さ

 

2018年夏から、アメリカは中国との貿易戦争に突入していますが、アメリカ側の制裁を警戒して、ファーウェイなどの中国企業との取引を制限したり、中国本土から工場を移転したりする動きが加速していました。そこへこの新型肺炎です。各国はチャイナリスクの大きさに改めて気づかされることになったはずです。

トヨタ自動車やホンダ、日産自動車など、日系自動車のすべてが中国工場の一時停止を余儀なくされ、ファーストリテイリングは武漢を中心とするユニクロの4割弱にあたる270店舗が休業、スターバックスは中国の店舗数の半分にあたる2,000店以上を一時閉鎖しました(「日経新聞」2020年2月5日付、他)。

とくに武漢は製造業が数多く集まっており、武漢に進出する日本企業199社のうち92社が製造業で占められるといいます(「ダイヤモンド・オンライン」2020年1月31日付)。

このように、日本を含む各国企業が中国での操業停止を余儀なくされたことにより、世界的なサプライチェーンにも大きな影響が出てくるでしょう。現代自動車は中国からの部品が滞ったことで、2月4日以降、韓国国内の3カ所にある全工場を順次停止することを決めました。

新型肺炎、中国から車部品供給が停滞 日本勢も懸念

中国メディアによれば、2017年の自動車部品の輸出は686億ドル(約7兆4,800億円)で、アメリカ向けが25%、日本10%、韓国5%、ドイツ5%になっているそうです(同)。

ジャスト・イン・タイム方式が普及している日本の製造現場では、部品の供給は毎日の納入時間まで指定されており、在庫を持たないシステムにその長所があります。中国からの部品供給が遅れたり、生産停止となると、組立工場の休業も避けられなくなる可能性があります。そのために、国内を含めて中国以外の地域からの調達先変更を検討する企業も増えてくるでしょう。

すでに米中貿易戦争で進んでいた各国の脱中国が、さらに加速していくことは避けられません。じっさい、アメリカのウィルバー・ロス商務長官は、新型肺炎がアメリカやメキシコへ雇用を戻すことを助けるだろうとの見解を明らかにしています。また、中国に7店舗を持つ日本の外食チェーン・ワタミも、中国からの撤退を決定したと報じられました。

改革開放以後、中国は外資を呼び込み急成長を遂げてきました。GDPでは日本を抜いて世界2位となり、北京や上海には摩天楼がそびえ立ち、世界中で中国富裕層がブランド物を爆買いする姿が見られるようになりました。

こうした表面の華やかさとは裏腹に、日本や台湾などから中国へ進出した企業は泣かされてきました。「世界一」が好きな中国は、工場設置にしても最先端の設備を要求し、最新の技術で製品をつくることを強要します。

日本企業などの中国進出について、中国当局の態度は熱烈歓迎でも、狙いは日本の資本やノウハウだけであるから、それらを盗み取られて、中国企業に市場を奪われるということが続いてきました。日本が新幹線の技術提供した中国高速鉄道などは、現在では「中国独自技術」と謳って世界中で販売していることはよく知られています。

こうした中国のあまりの酷いやり方に、撤退しようとしても、ペナルティや補償金額の多さに、それさえできない企業も少なくありません。中国には民事訴訟法231、別名「夜逃げ防止法」という法律があり、これは、外国企業が債務不履行や労働問題で民事訴訟を起こされた場合、責任者の出国が制限されるというものです。つまり、中国から撤退しようとしても、かつての中国人従業員から賃金不払いやセクハラ、不当労働行為などで訴えられたら、企業の責任者は中国から出国できなくなるわけです。

日本の多くの企業は、中国で失敗してもそれほど壊滅的打撃を受けるわけでもなく「高い授業料だと思えばいい」といった鷹揚さが逆に裏目に出てきました。自社の恥を外部に晒すことを嫌う日本の企業や経営者が、いかにも中国進出が成功しているかのように語るので、中国のほうも進出企業の8割は儲かっていると錯覚するのです。

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